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超高齢社会の在宅医療の充実を

「キュア」から「ケア」の時代へ

土堤内昭雄 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー

増える老衰死

 日本人の2016年の平均寿命は、男性80.98歳、女性87.14歳、65歳以上の老年人口が全人口に占める割合である高齢化率は27.3%である。日本はまぎれもなく世界トップレベルの長寿国であり高齢先進国だ。また、2017年末に厚生労働省が公表した『平成29年人口動態統計の年間推計』によると、昨年の出生数は94万人、死亡数は134万人だ。人口の自然減少数はついに40万人を突破し、日本は少産多死の本格的な人口減少時代を迎えているのだ。

 多くの高齢者はどのような人生の「最期」を迎えているのだろうか。2015年の日本人の死因は、第1位が悪性新生物(がん)、第2位が心疾患、第3位が肺炎、第4位が脳血管疾患、第5位が老衰だ。75歳以上の後期高齢者に限れば、老衰は男性の死因の第4位、女性死因の第3位である。老衰死亡率は、戦後の医療や検査技術の進歩により減少傾向にあったが、近年では上昇に転じている。長寿化の結果、自然死とも言える超高齢者の老衰による死亡数が増加しているためだろう。

 厚生労働省の死亡診断書記入マニュアルには、『死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いる』とある。近年では、本人や家族が延命治療を望まないケースや、長寿化により加齢に伴うなんらかの疾患を有する高齢者も多く、「老衰死」を明確に定義することは難しいのではないか。老衰死が増える中で、亡くなる場所も病院だけでなく、自宅や福祉施設等が増加している。今後、「在宅死」への新たな対応が求められる。

「キュア」から「ケア」へ

在宅医療で90代の女性を診察する医師=東京都内
 戦後、日本人の平均寿命が大きく延びた背景には、医療の進歩と保健衛生状態の改善がある。それにより乳幼児の死亡率が大幅に低下し、成人の病気・ケガによる死亡率も低減した。また、日本は1961年から国民皆医療保険制度を導入し、多くの人が良質の医療サービスを享受してきた結果、世界でも有数の長寿国になった。2000年には高齢化の進展に伴い、40歳以上を被保険者とする公的介護保険制度も施行された。高齢化による介護ニーズは一部の高齢者の問題ではなく、日本社会の普遍的な課題になったからだ。

 高齢社会において求められる医療の役割も変化し、急性期医療の需要に対して慢性期医療の比重が高まっている。高齢社会では、高度医療を担う大学病院等の特定機能病院などの大病院だけではなく、高齢者の慢性疾患にきめ細かく対処する「かかりつけ医」や在宅診療などを行う地域医療機関の役割が大きい。最近では、高度医療機関が地域医療機関と適切な役割分担を図るために、大病院の受診には「かかりつけ医」の紹介状の提出が必要になっている。

 平成27年6月、厚生労働省は『保健医療2035提言書』を出し、2035年までに必要な保健医療のパラダイムシフトのひとつとして、『キュア中心からケア中心へ』を挙げている。そこには『疾病の治癒と生命維持を主目的とする「キュア中心」の時代から、慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指す「ケア中心」の時代への転換』が掲げられている。

 高齢社会を誰もが幸せに過ごし、望むような最期を迎えるためには医療と介護の連携が不可欠だ。急性期医療の対応だけにとどまらず、

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