日本は起業が少ない。創業支援こそ経済活性化の柱だ
2018年05月08日
起業を目指す人に、日本の金融機関は冷たい。そう思っている人は少なくないだろう。そのなかで異彩を放つのが、京都信用金庫だ。「創業、開業の相談は京都信金へ」という評判も浸透している。日本経済を活性化させるヒントがそこにある。
日本では起業家を目指す人が少なく、開業率は欧米の半分以下と低迷している。一方で高齢化が進み、廃業率は高止まりしている。事業所数、とりわけ小規模事業所数は1999年以降低下をたどり、2009年から2014年の間に41万社減少した。事業所の減少は、地域経済の地盤を揺るがす深刻な問題だ。
開業率が低いのは、起業の社会的位置づけが高くないなど日本人の考え方に起因する部分があるが、金融機関の資金提供や支援も十分ではない。ベンチャーキャピタルの投資額は米国の5%以下と少ない。
多くの金融機関では、スタートアップ融資やファンドなどの形で創業支援に取り組んでいるものの、十分な成果が出ているとは言い難い。起業家の多くは自己資金や親族、知人からの借入で資金を調達している。起業に際しての相談先はどこかという質問に対し、民間金融機関という答えは2%にとどまり、存在感が薄い。
金融機関にとっては、貸し出し1件あたりのロットが小さく、信用リスクが高いため採算を取りにくい。ノウハウが少ないことも取り組みを妨げている。
そうした中、長い目でみた地域の成長のため、そして従業員の教育のため、積極的に創業支援に取り組み、成果を挙げている金融機関がある。京都信金だ。
京都信金は10年以上前から創業支援ローンに取り組んできたが、当初は融資件数が伸び悩んだ。職員はリスクに慎重で、創業支援への理解や共感は十分に広がらなかった。12年度は45件にとどまった。
ところが、15年度には10倍近い414件に急増。現在もほぼ同水準を維持しており、この分野でトップのシェアを持つ日本政策金融公庫に迫りつつある。「創業、開業の相談は京都信金へ」という評判も浸透している。
実績が上がったのは、経営トップが将来のために本気でこのビジネスに取り組むという強い意志を示したからだ。
全店にポスターを置き、退路を絶って、様々なルートで宣伝に務めた。成功例を作り、現場の意欲を引き出したことも大きい。多くの金融機関では、起業支援は本部の専門部署が行うため、顧客との距離が遠い。同庫では、すべての営業店がエキスパートになることをめざしている。
資金調達は創業者の抱える問題の一部に過ぎない。営業、技術、人材、労務管理、など課題は多種多様だ。金融機関の担当者にとって、こうした課題に一緒に取り組むことは従来の業務を越えているかもしれないが、一方で、自分の幅を広げるチャンスともいえる。
京都信金ではそうした取り組みを進めるなかで、入社して2~3年の若手が支店長のアドバイスを受けて大きく成長している。
社内の支援体制も整備されている。例えば、企業が新たな販売先を探している場合、取引先のネットワークを使ってビジネスマッチングを行っている。営業店の担当者が社内のイントラネットで質問を投げると、本部の支援部署だけでなく、他の営業店から様々なコメントやサポートが得られるようになっている。
京都といえば日本を代表する観光地。伝統文化、工芸品も多い。京都信金が支援した事業では、たとえばアプリを活用して24時間対応できる通訳サービス、伝統工芸品の直販システムなどがある。無農薬野菜を使ったベビーフードなど、社会課題に対応するビジネスも増えている。京都の特徴は学生の比率が高いことだが、学生による起業も多いということだ。
新たな事業に貸し出しをする場合、倒産リスクが高いと考えられるが、これまでのところ倒産に至ったケースは限定的だ。ポイントは金融機関の徹底したモニタリングであり、担当者は融資実行後も企業を見守り、問題があると一緒に対応を考えていく。
AIやビッグデータを活用し、スマートフォンやインターネットで手軽に融資を実行するフィンテック企業が出現している。フィンテック関連の融資額が最も大きい国は中国だ。
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