官僚は官邸に「忖度」などしない
2018年05月14日
読者の皆さまは既にご存じだろうが、話の展開上、このセクハラ事件の推移を時系列で簡単に整理しておく。
① 4月12日発売の週刊新潮が福田次官の女性記者に対する「セクハラ疑惑」を報道。福田氏はこの報道を否定。
② 4月13日、デイリー新潮ホームページで、週刊誌報道の音源が公開される。
③ 4月16日、財務省が「福田事務次官に関する報道に係る調査について」という文書を公開。この文書のなかの矢野官房長による福田次官への事情聴取で、福田氏は週刊誌報道を全面的に否定し、更に「週刊誌報道は事実と異なるものであり、私への名誉毀損に当たることから、現在、新潮社を提訴すべく、準備を進めている」と言明。同時に、財務省が報道各社の女性記者に対し調査への協力を依頼。
④ 4月18日、福田次官が「週刊誌報道に伴う混乱で、事務次官の職責を果たすことが困難」との理由で辞任を表明。
⑤ 4月19日未明、テレビ朝日が記者会見。自社の女性記者が福田次官からセクハラを受けたと発表。同日、財務省に対し正式に抗議。
⑥ 4月24日、福田次官が辞任。
⑦ 4月27日、財務省が福田前次官に対する懲戒処分(減給20%、6カ月)を発表。
この問題での財務省の初期対応が「上から目線である」と激しく批判されているが、それは全くもって当然である。間違いのもとは、この問題はあくまで福田氏個人への疑惑であるにもかかわらず、財務省が「組織として」対応したからである。
前述の経緯③にある財務省の文書が公表された時点で、福田氏はいまだに事務次官である。その文書の中で、福田氏が報道を否定して、新潮社を提訴すると言明しているのだから、財務省が福田氏の立場に立っており、新潮社及びセクハラ被害を受けたとされる女性記者と対立する立場にあると取られて当然である。この文書は、福田次官の指揮の下にある財務省が公表した文書である。
また、その文書の中で、財務省は報道各社の女性記者に、財務省が委託した法律事務所による調査への協力を依頼しているが、報道各社がこれを「財務省の威光を借りた福田氏の脅し」と受け取ったとしてもおかしくない。女性記者から見れば、弱いものいじめである。
もちろん、福田氏が1個人として、新潮社を提訴するのは彼の自由である。しかし、福田氏が既に財務省を辞職しているか、少なくとも事務次官の職を解かれているのでない限り、この人に対する疑惑の調査を財務省が行うことに、そもそも正統性がないのだ。
だからこそ、本来は政治主導の出番であった。首相の権限で、内閣人事局が外部の委員からなる調査委員会を作って、そこがセクハラの有無を調査・認定すれば、少なくとも財務省の調査よりは、格段に客観的だったはずであり、これほど混乱することもなかったのではないだろうか。
ところがそうはならなかった。安倍首相は、週刊新潮の報道の後で、直ちに事務次官の更迭を求めたが、森友問題の処分と一緒に片づけたいという思惑から財務省が抵抗したと報道されている。
1人のクビで済ませたいという財務省の都合は理解できなくもないが、だからといってこれほど居丈高に振る舞って、世間から嫌われることもないだろう。
福田氏がどうしても謝りたくないなら、「世間をお騒がせして申し訳ない。私は報道のようなことをしていないが、事実関係を明らかにするまで時間をいただきたい」とでも言って、とりあえず、次官を空席にして官房付にでもなっておけば良かったのだ。そうしておけば、
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