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スルガ銀行 イバラの道(上)

「証拠隠滅」「時間稼ぎ」にいら立つ金融庁

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

スルガ銀行本店=静岡県沼津市

 女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」建設資金をめぐる不正融資問題で、スルガ銀行が金融庁の検査で窮地に立たされている。米山明広社長は顧客らに陳謝する一方、不正の有無は「わからない」を繰り返しており、同行を「優等生」扱いしてきた金融庁もいら立ち始めた。

不正知る役職員の「退職」を画策

 金融庁の検査対象は現職の役職員に限られ、退職者は原則対象にならない。捜査当局と異なり、役職員の私物の携帯電話は調べられないなど限界もある。

 ところが、スルガ銀行は検査のさなか、不正融資の事情を知る役職員を辞めさせようとしていた。金融庁はこの動きを察知し、「銀行法上の検査忌避になりうる」とスルガ銀行側に伝えた。

 銀行法第63条の3号の「検査忌避」の要件に該当する場合、刑事告発されれば個人には1年以下の懲役刑または300万円以下の罰金、法人には2億円以下の罰金が科せれる可能性がある。刑事罰が科されれば、社会的信用が低下するのは必至だ。

 検査官経験のある弁護士は「メールなど証拠書類を破棄する姑息な物的検査妨害はこれまでもあったが、人的証拠自体を隠滅しようとした銀行は珍しい」という。

 これまで内部管理体制や営業状況が問題視された外資系証券会社でさえ、関係した役職員を出勤停止にして自宅で待機させ、必要に応じてヒアリングできる体制をとっていた。役職員を辞めさせて金融庁に確認を取らせないようにするのは検査妨害に等しいというわけだ。

延滞生じても法的措置は取らず

 「頭金なしで家賃を保証します」。このうたい文句が真実なら、販売・仲介会社はなぜ、時間や手間をかけて会社員らを勧誘したのか。低リスクで高収益の事業なら、他人を勧誘せずに自分たちで儲ければいいではないか。そんな当たり前の常識さえあれば、ここまで被害は拡大しなかったはずだ。

 しかし、リスクは伏せられ、甘い言葉に踊らされた人が大勢いた。

スマートデイズ社が展開した女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の建物の看板(画像を一部加工しています)

 スマートデイズ社(以下ス社、2018年5月15日破産)が絡んだ「かぼちゃの馬車」では、会社員や医師らがスルガ銀行から建設資金として1億~4億円の融資を受けた。今年初めにはス社からの家賃保証が完全停止し、返済に窮し始めた。

 スルガ銀行によれば、18年3月末時点で同社を含めたシェアハウス関連融資は1258人、残高は2035億8700万円(アパート向け融資は除く)。この大半がス社の絡んだものだった。

 これに対して、スルガ銀行は金利引き下げや元金の据え置きなどの条件変更を提案して順次契約手続きを進めており、現時点で延滞が生じても法的措置等を取らない異例の対応を続けている。ただ、建物現物での返済は一切認めない方針だ。土地・建物が割高な価格で取引されており、担保権を執行しても回収額が不足すると分かっているからだ。

「顧客も認識していた」と反撃

 スルガ銀行は「行員の関与は認められない」と主張していたが、2月から内部調査や弁護士からなる危機管理委員会で事実関係を把握した結果、「相当数の社員が認識していた可能性が認められる」と軌道修正した。

 とはいえ、その調査結果は「行員が二重契約や自己資金の偽装を明確に認識していたことを直接示す物的証拠はなく、1人を除いて全員が認識を否定している」というものだった。確定的な事実認定には至らず、新たに設置する第三者委で改めて徹底した調査する方針だ。

 一方で、スルガ銀行は反撃にも出ている。危機管理委の調査結果で、実際の売買契約書とは別に売買代金額を水増しした「銀行提出用」の売買契約書が作られる「二重契約」の問題に加え、「通帳偽造」のからくりを明らかにしたのだ。

 からくりはこうだ。①販売会社は顧客から預金通帳を預かり、顧客の自己資金不足を補うため一時的に顧客名義で「見せ金」を振り込む②顧客はスルガ銀行から融資を受けた後、建設費用などの支払った上、販売会社に「見せ金」を返却する――。

 スルガ銀行はこのからくりに基づいて「顧客自らが契約を締結しているものであるのだから、この手口は顧客も認識の上で行われていたと考えられる」と主張している。

 確かにこのようなケースであれば、顧客を「善意の被害者」とするのは無理筋だろう。しかし、スルガ銀行が審査過程でこのような稚拙な自己資金の偽装を見抜けなかったとすれば、善管注意義務・忠実義務違反になる。仮に知っていて融資したとすれば、銀行や行員もグルだったと言われても弁解の余地はない。

社内調査に「お手盛り」批判

 スルガ銀行の社内調査に当たった危機管理委のメンバーは、久保利英明氏(日比谷パーク法律事務所、写真下)や国広正氏(国広総合法律事務所)ら3人。スルガ銀行と他の業務で委任関係があり、日本弁護士会連合会の第三者委員会ガイドラインに準拠した要件を満たしていなかった。

久保利英明弁護士

 スルガ銀行と利害関係のある顧問弁護士も含まれていた。調査対象も横浜東口支店、渋谷支店、二子玉川支店の3支店と同行側が指定した範囲にとどまり、お手盛りとの批判が出ている。報告書全文も公表されていない。

 特に、久保利氏の日比谷パーク法律事務所は、日本アイ・ビー・エムとの勘定科目のシステムをめぐる訴訟でスルガ銀行の代理人を務めた(日本アイ・ビー・エムが約41億7000万円をスルガ銀行に支払うことで決着)。スルガ銀行とは「お互い持ちつ持たれつの関係」とも批判された。

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