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スルガ銀行 イバラの道(下)

警視庁は立件に及び腰。株価急落を受けた民事訴訟が焦点だ

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

拡大東証株価指数の下落を示すボード=2012年6月4日、大阪市中央区

 女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」建設資金をめぐる不正融資問題は、刑事事件に発展するのか。警視庁は今のところ消極的だ。一方、スルガ銀行の株価は半減しており、機関投資家から提訴されるリスクは高まっている。

被害者は誰? 加害者は誰?

 融資を受けた人々の弁護団は5月22日、スルガ銀行横浜東口支店の行員14人や販売・仲介会社の担当者19人(退職者含む)が預金通帳の残高水増しなど書類を改ざんしたとして、有印私文書変造・行使の疑いで警視庁に告発状を提出した。

 しかし、警視庁は及び腰で、刑事事件として立件できるか現時点で不透明だ。警視庁内部では、捜査二課がやるのか、生活経済課がやるのか、何も決まっていないのが実情だ。関係者によると、「もともと弁護団は5月14日に告訴状を提出し、15日に会見する予定だったが、警視庁の担当課の都合などで提出自体が22日にずれ込んだ」という。

 警視庁が告発状を正式に受理しない可能性もあるものの、告発状が提出された以上、先行している金融庁の検査でどのような法令違反事実が認定されるかが、警視庁の捜査の行方に大きく影響しそうだ。

 一部行員の個人犯罪に矮小化するのか、銀行の組織犯罪と認定するのか、行員の銀行への背任とするのか。要は、誰を加害者にし、誰を被害者にするのかという判断だ。これは当局と政治の胸三寸で決まる。

「第三者委が先手」も

拡大村上世彰氏

 2012年に年金資金2000億円が消失したAIJ投資顧問事件で、金融庁はファンドを販売していたアイティーエム証券が社会保険庁OBなどの運用担当者へ過剰な接待を通じて契約を結んでいた事実を把握。捜査当局と協議した結果、運用会社と販売会社が虚偽情報でファンドを勧誘する契約の偽計(金融商品取引法違反)の嫌疑で刑事告発した。

 警視庁捜査二課の捜査過程で刑法犯として詐欺罪を認定。全国的な贈収賄事件との構図は捨て、年金基金を被害者とする詐欺を優先した。逮捕者も当初は十数人規模が想定されていたが、経営者ら3人が主導したとして事件を矮小化した。

 一方、金融当局には思い出したくない前例がある。旧村上ファンドを率いた村上世彰氏らが相場操縦した疑いで証券取引等監視委員会が調査をしていた件で、村上氏の第三者委員会(委員長・元東京地検特捜部長の宗像紀夫弁護士)が「相場操縦罪は成立しない可能性が濃厚」との調査結果をまとめ、先手を打たれたのだ。監視委は検察庁と立件について協議を進めたが、今春、刑事告発を断念した。

 スルガ銀行の件でも、第三者委が先手を打ってくる可能性はある。第三者委と金融庁の結論が同じ方向なら、警視庁は立件しやすい。逆に異なる場合、警視庁はどのような罪で立件するか悩み、立件自体が見送られる可能性が高まる。

相次ぐ訴訟リスク

 スルガ銀行にとって捜査以上に悩ましいのは、民事訴訟への対応だ。どのような訴訟が起こされるかは今後の金融庁検査や第三者委の結論次第。先がまったく読めない。

 「引き受ける気が知れない」。スルガ銀行が5月15日に発表した新任取締役、新任監査役候補者名簿をみて、弁護士でもある上場企業の元社外取締役はこう話した。責任限定契約を結ぶにしても、株主代表訴訟を起こされたら、法的な賠償責任を問われる可能性がある。1年分の役員報酬ではとても割に合わないという。

 既にシェアハウス所有者からの民事訴訟が大阪地裁で起こされている。訴えられたのは、スルガ銀行と同行京都支店の融資担当者、大阪市の販売会社など。

 訴状によれば、所有者は、被告側が高額物件を購入するには収入が不足すると知りながら書類の改ざんで不正に融資を引き出し、割高な物件を購入させたなどとしている。スルガ銀行に対しては融資時のリスク説明が不十分で通帳原本の確認を怠るなど貸し手責任を追及している。

 個人株主らからはスルガ銀行経営陣の責任を問う訴訟が起こされる可能性もある。いわゆる株主代表訴訟だ。経営陣のほか取締役を監督する監査役、会計監査を担当した監査法人などが被告になり得る。

株価急落で G P I F は 前年比100億円超減少

 さらにやっかいなのは、スルガ銀行の株価が半減していることだ。年金資金を預かる信託銀行や個人投資家から民事訴訟を起こされる可能性も高まっている。

拡大

 今年1月10日に「2569円」の高値を付けたスルガ銀行の株価は、問題発覚後、下落の一途をたどっている。5月30日には「1181円」と年初来安値を更新。足元では1200円台で推移しており、3カ月強で50%以上の下落だ。時価総額約3000億円が吹き飛んだ計算である。

 現時点で本格的な動きはないが、金融庁検査の結果、法令違反や行政処分が認定されれば、民事訴訟の具体的な検討が始まる見通しだ。 ・・・ログインして読む
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筆者

深沢道広

深沢道広(ふかさわ・みちひろ) 経済・金融ジャーナリスト

1978年生まれ。慶応大学商学部卒業後、編集者として勤務。05年青学大院経営学研究科会計学専攻博士前期課程修了。格付投資情報センター(R&I)入社。R&I年金情報、日本経済新聞の記者として勤務。12年のAIJ投資顧問による2000億円の巨額年金詐欺事件に係る一連の報道に関与し、日経新聞社長賞を受賞。24億円の巨額横領、贈収賄事件など年金ガバナンス、資産運用の諸問題を明らかに。17年7月退社。

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