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愛媛県知事「首相への抵抗」何のため?

加計問題で孤立無援。「援軍」は現れるのか

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

拡大愛媛県の中村時広知事=2018年4月11日、県庁での定例記者会見で

 愛媛県が4月に続いて5月にも加計問題を巡る新文書を国会に提出した。安倍晋三首相らは全面否定している。筆者は愛媛県知事がなぜ首相に抵抗するのかずっと疑問に思っていた。政治的パフォーマンスという見方も一部に出ているが、「補助金投入に伴う透明性確保」というまっとうな理由が第一ではないか。ありのままにオープンにするスタンスは、安倍政権とはあまりに対照的だ。

支持率下げ止まり、首相は強気

 新文書は加計学園の獣医学部新設をめぐり、首相や官邸が早い段階から何度も加計学園側とやり取りを重ねた経緯を時系列に記載したもの。4月に明らかになった文書(加計学園、愛媛県、今治市が2015年4月に官邸で柳瀬氏らと面談したことが記された文書)より以前の経緯、なぜその面談が実現したのかが読み取れる。

 新文書発覚という「火」に油を注いだのは、加計学園自身だった。

 加計学園は当時の担当者に記憶の範囲で確認したところ、「実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、県と市に誤った情報を与えてしまったように思う」とするコメントを発表した。加計学園の担当者が「総理と理事長の面談」をでっちあげ、愛媛県と今治市に伝えたというのである。従って愛媛県の新文書は「虚偽情報」に基づいて作成されたものというわけだ。

 加計学園は「当該職員の記憶の範囲であり、確認には困難な部分がある」とも説明している。

 新文書を公表した愛媛県は、この問題の関係者の中でほぼ孤立無援だ。

 首相、官房長官、経済産業省の柳瀬唯夫氏(当時の首相秘書官)、加計学園ら関係者のいずれも全面否定している。とはいえ、何一つ客観的な証拠を出しておらず、説得力に欠ける。愛媛県が現時点で録音など決定的な証拠を出していないのをいいことに、愛媛県を「ウソつき」扱いし、のらりくらり逃げ切るつもりのようにみえる。

拡大衆院予算委の閉会中審査に参考人として出席し、答弁する柳瀬唯夫・元首相秘書官(左)。右端は安倍晋三首相=2017年7月24日

 首相らの強気の姿勢を後押ししているのは、内閣支持率の下げ止まりだ。時間が経過すれば収束するという楽観論がまかり通っている。首相らは「愛媛県さえ余計なことをしなければ……」と思っているに違いない。

父は旧社会党、自身は日本新党で衆院へ

 一躍時の人となった愛媛県の中村時広知事のキャリアを振り返っておく。

 中村氏は旧社会党の衆院議員でのちに松山市長に転じた父(時雄氏・故人)を持つ二世議員。1982年に三菱商事に入社。1987年の県議選で初当選し、1990年に衆院選に出馬したものの落選。1993年に日本新党公認で衆院選に出馬し、新党ブームに乗って初当選した。

 1999年に3選を目指す現職市長を破り、父と同じく松山市長になった。39歳のときだ。松山市長を11年務めた後、加戸守行前知事の退任を受けて2010年の県知事選に出馬。松山市長選には後継候補を送り込み、県政と市政を同時に掌握した。

拡大参院予算委で答弁する加戸守行・前愛媛県知事=2018年5月10日

 2014年の知事選では自民党を含め共産党以外のすべての支援を受け、共産党候補者に9倍の差をつけ圧勝。2018年11月の知事選に向けて正式な出馬表明はしていないが、経済団体などからは3選出馬を求める声が出ている。

 愛媛県関係者によると、加計学園の獣医学部新設は加戸前知事時代からの引継ぎ案件で、中村知事は「当初は乗り気ではなかった」という。一時は大学誘致を断念し、サッカースタジアムの建設などの代替案を検討しようとしていたくらいだ。

 今年11月に知事選を控えることもあり、新文書公表は県民向けの人気取りの政治的パフォーマンスという見方も流れたが、現職として知事選に勝つためだけならあえて安倍政権と全面対決するリスクをとる必要はないだろう。

「透明性必要」はまっとうだ

 中村知事は「とにかく疑念を払しょくして、学生たちが安心して学べる環境を早く整えたい」と強調している。県として税金を数年間で30億円支払う予定であり、「開学したのは歓迎しているが、約束に基づいて出す以上は県民にクリアしておかなければならない」と述べ、「透明性にこだわってきた」と説明している。

 仮に国政転出など様々な政治的思惑があるとしても、「透明性」の主張自体は極めてまっとうだ。

 経済産業省の柳瀬氏の名刺をあえて公開したのも、柳瀬氏の発言には県の信頼を揺るがすものがあり、看過できなかったからだろう。県職員や個人としてのプライドを守りたいという思いもあったに違いない。

 愛媛県職員は金曜日の知事の定例会見を翌週にはウェブサイトに掲載するなど中央省庁の広報室より迅速な印象を筆者は受けている。

 これに対し、安倍政権は愛媛県文書を認めようとしない。首相は「私も加計氏も会っていないと言っている。県担当者は私や加計氏から直接聞いたわけではない。加計学園関係者から伝聞の伝聞だ」と繰り返し、加計学園は「愛媛県や今治市に誤情報を伝えた」と首相援護の姿勢を崩さない。

拡大岡山理科大学今治キャンパスで行われた獣医学部の入学宣誓式であいさつする加計孝太郎理事長=4月3日

 とはいえ、加計学園が否定したのは、首相と加計理事長の面談が架空のものだっただけで、文部科学省や獣医学の専門家などそれ以外の登場人物とのやりとり全てを否定しているわけではない。

 はたして愛媛県職員が職務上書き留めた文書を「信用性がない」と全否定することができるだろうか。この問題に絡む関係者は少なくない。首相をかばうこともなく、今はじっと静観を続けている関係者たちが、愛媛県の孤立無援の闘いを見てもなお「見て見ぬふり」を続けるのか、それとも新たな「援軍」として表舞台に現れるのか。 ・・・ログインして読む
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筆者

深沢道広

深沢道広(ふかさわ・みちひろ) 経済・金融ジャーナリスト

1978年生まれ。慶応大学商学部卒業後、編集者として勤務。05年青学大院経営学研究科会計学専攻博士前期課程修了。格付投資情報センター(R&I)入社。R&I年金情報、日本経済新聞の記者として勤務。12年のAIJ投資顧問による2000億円の巨額年金詐欺事件に係る一連の報道に関与し、日経新聞社長賞を受賞。24億円の巨額横領、贈収賄事件など年金ガバナンス、資産運用の諸問題を明らかに。17年7月退社。

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