2018年06月06日
「監査の歴史は不幸な事件の積み重ね」といわれる。2000年代に入ると、とくに不幸な出来事が続発した。大手銀行の不良債権問題では、国有化されたりそな銀行をめぐり、担当していた会計士が自殺した。会計士が深く関与したカネボウやライブドアの粉飾決算事件をきっかけに、経営者とのなれ合いを断つため、監査人の独立性が強化された。オリンパスの損失飛ばし事件は、監査法人による不正会計のチェック体制を改めて問いかけた。そして、2015年に東芝の不正会計問題が起きる。
監査制度の改革はいずれも「道半ば」だったのだ。東芝とPwCあらた監査法人の対立から、何を教訓として、つかみとればいいのだろうか。
両者の関係にはすでに亀裂が入っていた。いっこうに監査意見を出そうとしないPwCあらたの態度に業を煮やした東芝は、監査契約を合意のうえで解約する方向で話を始めた矢先だった。東芝の関係者はこう証言する。「PwCあらたからは『親会社の監査をしない以上、そのコントロールを受けているグループ会社の監査はできません』という説明があった」。巨大企業である東芝のグループ会社は大企業がほとんどで、上場している企業も少なくない。このとき、東芝を含めた20近くの企業群が、監査の引き受け手がなくなる「監査難民」になる恐れがあった。「『そりゃないでしょう』と何度も申し入れしたり、『申し訳ない』と謝罪したり。いろいろなことをしたけど、PwCあらたは『絶対戻りません』の一点張りだった」
もし監査を受けられなければ、東芝は間違いなく上場廃止になってしまう。最悪のシナリオを避けるには、別の監査法人に頼るしかない。だがここで、東芝に新たな難題が立ちはだかった。後任の監査法人をどこに頼めばいいのか――。
現在、監査法人は全国に約230ある。しかし、数多くのグループ会社と海外に拠点を抱える東芝のような大企業を担当できる大手は、新日本、あずさ、トーマツ、PwCあらたの四つしかない。この四大監査法人の寡占体制ができたのも、まさに「不幸な事件の積み重ね」によるものだった。かつて最大手だった旧中央青山監査法人は、2005年のカネボウ事件で4人の会計士が逮捕され、「市場の番人」としての信用を失った。2つの監査法人に分裂して再出発を期したが、その後の日興コーディアルグループの不正決算問題などで行き詰まり、本体はやがて清算された。旧中央青山の解体により、2006年に発足したのが今のPwCあらた監査法人である。
東芝は、2015年の不正会計問題で、47年間監査を依頼していた新日本から、PwCあらたに代えたばかりだった。トーマツからは元包括代表(CEO)の佐藤良二を社外取締役として受け入れている。また、あずさには経営コンサルティングを頼んでいたことがあり、4大監査法人のいずれとも利害関係があった。
「4月14日 佐藤委員長が太陽監査法人を訪問。梶川会長へご挨拶を行い、3Q決算の経緯や状況に加えて、PwCとの論点などを紹介し、意見交換を行った」
昨年4月14日、東芝社外取締役で監査委員長を務める佐藤が、太陽会長の梶川融を訪れ、四半期決算の経緯や現状のほか、PwCあらたとの論点などを紹介し、初めての意見交換をした。同じ日、佐藤ら東芝幹部は、金融庁で企業の情報開示を担当する審議官の古澤知之をたずねた。PwCあらたと監査契約を継続した場合、決算に監査意見がもらえるか不透明なため解約する方向で調整していること、また、後任として、太陽を考えている、と伝えた。
この席上、佐藤らは、太陽が「ある懸念」を抱いている、と説明している。
太陽会長の梶川は、東芝という巨大企業グループの監査を引き受けるには太陽側のマンパワーが足りない恐れがあること、そして、
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