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消費増税と価格との賢い関係

導入されて30年。消費税についてそろそろ欧州並みの感覚を持っては……

森信茂樹 東京財団政策研究所研究主幹・中央大学法科大学院特任教授

骨太の方針の最大のポイントは

経済財政諮問会議・未来投資会議合同会議であいさつする安倍晋三首相(右から3人目)=6月15日、首相官邸拡大経済財政諮問会議・未来投資会議合同会議であいさつする安倍晋三首相(右から3人目)=6月15日、首相官邸

 6月15日に政府が公表した2018年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の最大のポイントは、2019年10月からの消費税率10%への引上げを行うことの決定と、そのためには税制・財政措置を総動員し、来年度当初予算から必要な手当・あらゆる施策を講じるという政権の意思が書かれていることである。

 消費増税に伴う経済への悪影響の懸念から、安倍政権はすでに2度、増税を延期した。これに対し、あらゆる施策でもって経済への悪影響を排除するので、財政健全化・全世代型社会保障の構築・現役世代の不安の緩和に必要な消費増税は予定通り実施してほしいというもので、事務方が官邸を説得する姿が垣間見えるようだ。

 増税の一方で予定される措置とは、消費税率引上げ分の使い道の見直し(5兆円強の税収の半分を教育負担の軽減・子育て層支援・介護人材の確保等にあて、幼児教育の無償化も目指す)、軽減税率制度の導入、耐久消費財への悪影響の緩和(自動車や住宅などの購入支援、需要変動を平準化するため税制・予算による十分な対策)などである。

注目は「消費税率引上げと需要変動の平準化」

 これらと並んで今回特に注目されるのは、「消費税率引上げと需要変動の平準化」と題する項目である。

 「14年4月の消費税率引き上げ時には、耐久消費財を中心に駆け込み需要とその反動減が生じ、景気の回復力を弱めた。ドイツや英国を見ると、消費増税時の経済変動は小さいので、その経験に学びつつ経済変動の平準化を目指す」ことが骨太に明記された。

 そのうえで、欧州諸国では「どのようなタイミングでどのように価格を設定するかは、事業者がそれぞれ自由に判断している。このため、税率引上げの日に一律一斉に税込価格の引上げが行われることはなく、税率引上げ前後に大きな駆け込み需要・反動減も発生していない」としている。

 では、欧州諸国とわが国では事業者の対応・認識がどのように異なるのだろうか。

経済変動が見受けられないドイツや英国

 まず、図表1を見ていただきたい。これは、消費税増税前後の実質GDP成長率の4半期ごとの変化を、日・独・英の3国で比較したものである。

 赤線の日本では、増税前の増加と増税直後の落ち込みがみられ、元の水準まで回復するのに1年程度の時間を要している。一方、ドイツ(07年に16%から19%に引上げ)や英国(11年に17.5%から20%に引上げ)では、増税時には大きな経済変動は見受けられない。何事もなかったように経済は推移しているのである。

図表1拡大図表1

日本と欧州で異なる消費税前の物価の動向

 次に、図表2である。これは、消費増税前後の消費者物価を調べたものであるが、特色的なことは、ドイツや英国では増税直前(図表では0)に価格が上がり、増税直後(図表では1)には価格が低下していることである。

 

図表2拡大図表2

 一方わが国では、4半期ベースの統計ではよくわからないが、日時物価指数(図表3)でみると、増税直前に価格が下がり、直後に大きく上がっていることがわかる。

図表3拡大図表3

 このような価格動向の違いは何を意味しているのであろうか。筆者の考え・推察は、以下のとおりである。

 わが国の事業者は、増税前には価格を引下げて駆け込み需要をあおり、増税後は一斉に価格を引き上げるので、反動減が大きくなる。逆にドイツ・英国では、増税前は駆け込みが見込まれ需要が強いので、価格を引き上げる。逆に増税後は需要が弱くなるので、価格の引上げはなだらかにする。この結果、需要は鳴らされ、駆け込みと反動減は小さく抑えられることになる。

マージンを確保するよう値段を変える欧州

 このような事業者の価格に対する認識は、なぜ異なるのだろうか。

 消費税は、価格の上昇を通じて最終消費者に負担を求める間接税である。事業者は納税義務者だが負担するのは最終消費者というように、納税義務者と負担者が異なるのが間接税である。しかし、これは学問上の話で、現実にBtoC(対消費者)の商売で、消費者に消費増税分を転嫁できるかどうかは、時々の経済状況や価格支配力、商品の価格競争力などによって異なる。

 欧州では、消費税は日々価格の変動する人件費や仕入れと同じ、価格を形成するワンノブゼムのコストの一つ、という認識が長い歴史の中で定着している。したがって、消費増税が近づくと、需要動向を見ながら、自らのマージンを確保できるよう、値段(消費税込み)を変えていく。何も、増税のその日に価格を一斉に変える必要はない、

 つまり、需要が強いと予想すると値上げをし、需要が弱いとなると値段は上げない。すべて消費税込みの値段で考えていく。

増税に合わせて一斉に値段を変える日本

 では、わが国はどうか。 ・・・ログインして読む
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筆者

森信茂樹

森信茂樹(もりのぶ・しげき) 東京財団政策研究所研究主幹・中央大学法科大学院特任教授

1950年生まれ、法学博士(租税法)。京都大学法学部を卒業後、大蔵省入省。1998年主税局総務課長、1999年大阪大学法学研究科教授、2003年東京税関長、2004年プリンストン大学で教鞭をとり、2005年財務総合政策研究所長、2006年財務省退官。この間東京大学法学政治学研究科客員教授、コロンビアロースクール客員研究員。06年から中央大学法科大学院教授、(一社)ジャパン・タックス・インスティチュート(japantax.jp)所長、東京財団上席研究員。10年から12年まで政府税制調査会専門家委員会特別委員。日本ペンクラブ会員。著書に、『税で日本はよみがえる』(日本経済新聞出版)、『未来を拓くマイナンバー』(中央経済社)『消費税、常識のウソ』(朝日新書)『日本の税制 何が問題か』(岩波書店)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除』(共著、中央経済社)『どうなる?どうする!共通番号』(共著、日本経済新聞出版社)など。

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