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世界に広がる「歩きスマホ」対策

罰金条例、専用レーン、埋め込み信号……危険性の認識深まる

佐藤 仁 学術研究員/ジャーナリスト

拡大歩きスマホにも気をつかいながら町を電動一輪車で走る男性=パリ
 日本だけではなく、世界中でスマートフォンが普及しており、それに伴って多くの人が「歩きスマホ」をしている。「歩きスマホ」は日本だけではなく、世界中でトラブルや交通事故などの問題になっている。それでは対策はどこまで進んでいるのだろうか。ここでは世界各地で導入されている「歩きスマホ」対策の事例を見ていきたい。

(1) ハワイ・ホノルル「歩きスマホ」罰金:他都市も続くか?

 ハワイのホノルル市では2017年10月25日に、道路横断中のスマホチェックやゲームなどの行為を禁止する条例が施行された。これに違反すると罰金を科されるというもので、スマホだけではなく、タブレット、ノートパソコン、ゲーム機、デジタルカメラも罰則の対象となる。

 「歩きスマホ」による罰金はアメリカの主要都市では初めてである。罰金は35ドル(約4,000円)から99ドル(約12,000円)であり、違反した回数によって異なる。ただ、緊急連絡番号(911)は罰金の対象外となっている。

 ホノルルでの罰金の対象はアメリカ人だけではなく、日本人を含め、あらゆる人々が対象になる。日本人は年間に約150万人がハワイを訪問しており、「歩きスマホ」の罰金も決して他人事ではない。レストランや店舗をスマホで探したり、撮影した写真をSNSにアップしたりする時にも注意が必要だ。

 そして「歩きスマホ」の罰金制度を導入している主要都市はホノルルのみだが、他にカリフォルニア州のモントクレアでも「歩きスマホ」禁止条例が2018年1月に可決され、8月から施行される予定だ。道路横断中のスマホ使用だけではなく、イヤホンで耳をふさいだ状態での歩行も禁止となる。

 さらに、シカゴやニューヨークでも「歩きスマホ」による罰金制度の導入を検討しようとしている。ニューヨークのビル・デブラシオ市長も2018年3月のプレス向けの会合で、「歩きスマホ」の禁止と罰金の導入を検討していることを明らかにした。まだ市長のアイデア段階であり、具体的な罰金の額や導入時期が決まっているわけではないものの、ニューヨークのような大都市で「歩きスマホ」が禁止になることがあれば、インパクトは大きい。

(2) 「歩きスマホ」専用レーン

 「歩きスマホ」は視野が狭くなり、「歩きスマホ」をしている人自身が交通事故にあったり、転倒したりする危険があるだけではなく、歩行者にぶつかって加害者になってしまうこともある。また「歩きスマホ」をしていない人にとっては、「歩きスマホ」で歩いている人は、歩くのが遅かったり、急に立ち止まったりと、非常に迷惑な存在だ。

 そこで導入が検討されているのが「歩きスマホ専用レーン」だ。今年6月には中国陝西省西安のショッピングモールの前に「歩きスマホ専用レーン」が設置された。幅1メートル、長さ100メートル程度で、一般の歩道(「歩きスマホ」をしない人のための道路)と区別するために、赤・緑・青でペイントされ、「低頭族専用道路(歩きスマホ専用レーン)」と書かれている。「低頭族」は「歩きスマホ」をする人の意味で、中国でも社会問題になっている。WHO(世界保健機関)によると、中国では年間約68,000人が歩行中に事故で死亡している。中国における道路での交通事故による死亡者は年間で約26万人なので、約4人に1人が歩行中に事故で死亡していることになる。西安のショッピングモール前の「歩きスマホ専用レーン」にも「残りの人生は下を見ないで歩いて行こう!」など、「歩きスマホ」をしている人たちを皮肉った注意書きも書かれている。中国では2014年に重慶でも「歩きスマホ専用レーン」が設置された。

 アメリカでは、2012年4月に、フィラデルフィア市で「歩きスマホ」専用道路「e-lane」を1週間だけ、トライアルで導入したことがある。また首都ワシントンDCでは、2014年7月にナショナルジオグラフィックのテレビ番組の企画で「歩きスマホ」専用レーンと「通常の歩道(歩きスマホ禁止)」レーンを作って、人々の行動を見るという実験を行ったことがある。

 ユタバレー大学では、2015年6月に、階段を左から「WALK(普通に歩く)」「RUN(急いでいる学生が走る)」「TEXT(歩きスマホ専用レーン)」の3つに分割するトライアルを行った。教室に入って来る時もスマホの画面ばかりを見つめて、ゆっくり歩いてくるので遅刻する学生が多すぎると問題になっていた。ただし「歩きスマホ」をしている学生はスマホに集中しているため、「TEXT(歩きスマホ専用レーン)」という表記が目に入らず、本当に守られるかどうかは懐疑的であるとの意見も多かった。

 「歩きスマホ専用レーン」の導入や設置は容易ではない。というのも、現在の1本の歩道を「通常の歩道」と「歩きスマホ専用レーン」の2本に分割しなくてはいけない。住民の反対もあるだろうし、行政による費用負担となると合意に至るのも容易ではない。また専用レーンを導入したところで、本当に守られるかもわからない。そのため、ショッピングモール前の歩道や大学構内などでの「歩きスマホ専用レーン」の導入は多いが、一般の歩道での導入はなかなか進んでいない。

(3) 「歩きスマホ」はなくならない。逆の発想で「道路に埋め込み信号」

 信号待ちでは多くの人がスマホを見ており、そのまま「歩きスマホ」で歩いていく人がほとんどだ。「歩きスマホ」のまま、信号で止まらなければならないこともあるが、神経はスマホに集中しているため、信号に気が付かず、あやうく大事故になりそうな人もいる。

 ドイツでも「歩きスマホ」は問題になっており、ミュンヘンでは2016年に15歳の少女がヘッドホンをしながら「歩きスマホ」をしていて、トラム(路面電車)と接触して死亡する事故が発生した。ドイツだけではなくヨーロッパの多くの町ではトラム(路面電車)が普通の道路を走っており、柵などが無い所が多いため「歩きスマホ」は非常に危険である。

 そこで、ドイツのバイエルン州のアウクスブルクでは2016年4月に、「歩きスマホ」歩行者のトラムへの接触を防ぐため、信号灯を道路に埋め込み、スマホを見ていても視界に入るようにした。「信号灯が赤であれば止まれ」とわかるので、「歩きスマホ」をして下を向いていても道路に埋まっている信号が赤であれば、止まらなくてはならないとわかる。

 「歩きスマホ」がなくならず、信号を見ない人もいるため、道路に信号を埋め込むという逆の発想だ。これはドイツだけではなく、 ・・・ログインして読む
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筆者

佐藤 仁

佐藤 仁(さとう・ひとし) 学術研究員/ジャーナリスト

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割などに関して研究しています。例えば、情報通信技術や国際秩序や安全保障体制をどう変化させたのか、そして新たなデジタルメディアやポップカルチャーなどコンテンツによって人間の行動パターンと文化現象はどのように進化してきたのかを解明していきたいと思っています。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。

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