世界のみんながやっていることには、一面の真理がある
2018年07月07日
「平成の財政」を語る第6弾は、ライフネット生命保険創業者で立命館アジア太平洋大(APU)学長の出口治明さん。
取材にうかがうたびに、わかりやすい語り口の背後にある該博な歴史の知識に圧倒される。企業経営の傍ら、執筆した著作「仕事に効く教養としての『世界史』」はベストセラーになった。
「博覧強記」とは出口さんのような人物をいうのだろう。経済の最前線にも、世界の歴史にもくわしい出口さんの目には、日本の財政赤字はどのように映っているのか。歴史的な観点で問題を読み解いていただこう、というのが取材の大きな狙いだ。
「代表なくして課税なし」――。取材の冒頭から米国の独立戦争の故事が出てきた。欧米の近代史を振り返りながら、出口さんは日本が抱える財政問題の本質とは何かを鋭く指摘した。
自身を「保守的な人間」と語る出口さんの財政問題への処方箋は、どのようなものだろうか。
巨額赤字を抱える日本の財政を考える際に大事なポイントは、民主主義の正統性の問題が関わっている、というところにあります。
18世紀の米国の独立戦争は、ロンドンの議会に代表を出せないのに、植民地戦争の経費を押しつけてきたことに反発して起きました。そこで「代表なくして課税なし」という有名な言葉が登場した。ロンドンの議会に「課税するなら政治に参加する代表を選ばせろ」と要求したのです。この原理原則がアメリカを独立へと導きました。
民主主義には、自分たちが払った税金の使い道は、自分たちで決めるという考えが根本にあります。
2018年度の政府予算案を見ると、借金返済に当てる国債費が歳出に占める割合は2割を超えています。納めた税金を過去の借金の返済にあてざるをえない状況が続いていることがわかります。
未来の世代が「借金をしてもいいですよ」と、私たちに権限を与えたわけではないのに、33兆円もの国債を新規に発行しています。
子どもや孫の時代になると、税金を納めても、膨らむ借金の返済によって歳出の自由度が大幅に減る可能性があります。分配しようと思っても分配できないじゃないか――。それほど遠くない将来に、多くの若者がそんな不満を抱く状況に陥るかもしれません。
今を生きている私たちが子どもや孫の名前で勝手にクレジットカードを使う権限があるのでしょうか。民主主義の正統性に鑑みれば、そんな権限はないはずです。こうした原理原則論を政治家は認識していない。メディアもきちんと伝えてきませんでした。民主主義の原則に基づいた負担と給付のあるべき姿に立ち戻ることが必要です。
欧州の先進諸国は、社会保障のために消費増税を行い、財政の健全性を示す指標の一つである基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化にこだわってきました。
僕は保守的な人間です。保守主義は「世界のみんながやっていることには、一面の真理がある」という考え方です。多くの国がPB黒字化を大切にしているのです。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください