財政悪化はたった一つの原因によるものでない。「全員が共犯」だ
2018年07月13日
池尾和人さんほど官僚や日銀マンに信頼されている学者はいまい。経済や財政、金融の制度づくりを検討する政府のさまざまな審議会委員を長く務めてきた。日銀審議委員の候補になったこともある(ねじれ国会で野党に否決されてしまうのだが)。
学識経験が豊富で論理的、それでいて現実の経済を見る目も確か。ただ、それだけではない。研究活動にとどまらず、現実の政策づくりに貢献したいという本人の思いの強さがある。それが政府の仕事に真摯に取り組むエネルギーになってきたのだろう。
その政策提言のプロフェッショナルがいま「国家百年の計とは言わないが、せめて国家25年の計を」と求める。近視眼的な財政運営がまかり通る現実に対して、きわめて真っ当な提言である。
今後、財政の行方がどうなるかは民間の貯蓄動向次第だと見ています。
高齢化の影響で家計の貯蓄は減少傾向ですが、一方で企業の内部留保は高い水準を維持しています。財政赤字は巨額ですが、家計と企業部門を足し合わせた民間貯蓄が財政赤字を上回っているおかげで、国債の消化はとりあえず支障なく行われています。
ただそれは未来永劫、持続可能かといえば、そうではありません。2025年までには団塊世代は全員が75歳以上の後期高齢者になります。社会保障の費用は拡大し、家計の貯蓄が次第に取り崩されてくるでしょう。
また、景気が回復して投資が過熱してくると企業は投資を増やして内部留保が減ってきます。こうなってくると財政赤字が民間貯蓄を上回る可能性が出てきます。それまで国債に回っていたお金が枯渇し、長期金利が上昇してしまう。そんな問題が顕在化してくる恐れがあります。
日本の社会保障制度の出発点は、1970年代初頭の「福祉元年」だと思います。このとき、当時の田中角栄首相が社会保障費を大きく拡大させていく仕組みを作りました。高度成長が終わるタイミングであったにもかかわらず、高度成長が続く前提で社会保障の仕組みを設計してしまった。そのおかげで構造的に財政赤字が膨らむようになってしまいました。
もちろん財政悪化の原因はそれだけではありません。その後も、バブル崩壊、金融危機、リーマン・ショック、東日本大震災など危機のたびに財政が拡大され、一方で負担増は先送りされてきました。つまりいまの財政悪化はたった一つの原因によるものでなく、「全員が共犯」ということになります。
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