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⑦財政破綻論の火付け役、河村小百合さん

アベノミクスでいい思いをした人は海外に逃げられる。でも大多数の国民は逃げられない

原真人 朝日新聞 編集委員

異次元緩和を一貫して批判してきたエコノミスト

 今回ご登場いただいた論者はエコノミストの河村小百合さん。他の論者たちとはちょっと異なるタイプの“プレーヤー”である。

 2013年春の日本銀行による異次元緩和スタート以来、河村さんは一貫して政府・日銀による「財政ファイナンス」を厳しく批判してきた。日銀による大量の国債買い入れが事実上、政府の借金財政の支え役と化しているとの指摘である。

 異次元緩和に対して論理的、かつ本質的な批判を続けてきた数少ない論者のひとりだ。その論鋒の鋭さは参考人として招かれた参議院でも鈍ることなく発揮された。

 同じ過ちを犯した戦前の財政は戦後、預金封鎖や超インフレをもたらし、国民を苦しめた。その恐れは今もある、と警鐘も鳴らす。最近、静かに広がりつつある財政破綻論の火付け役でもある。

 日本の財政の未来を憂い、将来世代の明日を真剣に心配するエコノミストのぶれることのない警告を聞いていただきたい。

拡大河村小百合さん。日本総合研究所の上席主任研究員。1988年に京大法学部を卒業後、日本銀行を経て現職。著書に『中央銀行は持ちこたえられるか』など

海外に逃れられない人に重税が待っている

 もし政府も日銀も何も考えず、いまの財政政策、金融政策のまま走り続けたら、そしてもし何かボタンの掛け違えがあったら、財政がドッと崩れることは十分ありうると思います。

 影響が大きいので、政府はそう簡単に国債のデフォルト(債務不履行)はできないでしょうが、下手をすると、デフォルトに匹敵するような国内債務調整という深刻な事態が避けられなくなります。幸いそうならずに財政再建をやれるとしても、おそらく数十年がかりです。

 ここまで財政が悪化したのは、政治が真面目に国民に実情を説明する責任を放棄してきたことが原因です。国民も財政問題を真面目に考えてきませんでした。

 いまはまるで「一億総弱者の時代」。本当ならお金持ちはたくさん負担を、そうでない人も所得に応じた負担をしないといけません。でもそう考えない人が多い。自分は負担をしなくていい、自分よりもお金持ちの人はたくさんいる、と。だれがこの国の財政を支えるのかということを真剣に考えていない人があまりに多いのです。

 増税はだれでも嫌です。でも政府が借金をしつづければ、自分たちの子どもの代にツケ回ししているのだということをよく考えるべきです。

 森友問題の影響で財務省は批判を浴び、「増税ができなくなった」という論調があります。そこにも財政再建というのは財務省にいわれて仕方がないからやる、という意識が垣間見えます。

 欧州の人たちは、地続きのところにあるギリシャの債務危機を見て、ぞっとしています。ああいう風になったら困る、と。日本は島国ですが、現代ではインターネットでも報道でも、映像でその様子が見られます。どうして、ああなったら困ると思わないのか不思議です。

 財政悪化の歯止めが最初にポンと飛んでしまったのはリーマン・ショックと東日本大震災でした。そこから新発国債を50兆円出しても平気になった。リーマン・ショック後は、震源地だった欧米諸国がまじめに財政再建をやってきたのに、日本はずるずるここまできてしまった。

 財政が決定的に転がり落ちたきっかけは安倍政権だと思います。2%物価目標を達成するためというのを方便にして、日銀に国債を買い支えさせる事実上の財政ファイナンスを始めました。ルビコン川を渡ってしまったのです。

 いま必要なのは、まず、早く日銀に財政ファイナンスから手を引かせることです。政府は基礎的財政収支の黒字化目標時期を2025年まで5年先送りしました。日銀が今の政策を続けているかぎり、なし崩し的にそうやって先送りできてしまうのです。

 安倍政権は、日銀がひたすら国債を買ってくれれば財政運営しやすくなる、と考えています。日銀の黒田東彦総裁もそれがわかっているから、安倍政権が続く限り異次元緩和の「出口」は口にも出せない。為政者たちは事の重大さがわかっていないのです。

 財政破綻の恐ろしさは、戦後すぐの状況が参考になります。戦前・戦中にも政府は財政ファイナンスで戦費を調達していました。ひどい財政状態は敗戦によって顕在化しました。戦後の預金封鎖は2年ぐらい続きました。その間500%ぐらい物価が上昇しました。円の価値は著しく目減りし、国債も紙くずのようになってしまいました。インフレで財政問題を解決する、というのはそういうことです。その怖さを認識しておかないといけません。

 日本は経常収支が黒字だから大丈夫、という声もありますが、楽観できません。今の経常黒字は第一次所得収支の黒字が大きく、それには、日本での投資を避け、海外投資へと資本を逃がす「キャピタルフライト」の側面もあるからです。大手企業がだんだんと海外に事業の軸足を移し、海外からあがってくる収益が増えているのです。富裕層が資産を海外に逃がしているかもしれません。

 円の価値が著しく安くなったとき、アベノミクスでいい思いをした人は資産をもって海外に逃げることができるかもしれません。でも大多数の国民は逃げられないのです。そのとき国内に残された人には重税が待っています。 ・・・続きを読む
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筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。経済面コラム「波聞風問」を執筆中。著書に『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)、共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

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