「大物」次官が霞が関から見た平成の永田町の風景とは
2018年07月14日
財務省(旧大蔵省)の事務方トップの事務次官。1年で交代するのが一般的だが、中には「10年に1度」と言われる大物が出る。2年半にわたって次官を務めた武藤敏郎さん(現大和総研名誉理事)もその一人。「平成の財政」を語る第9弾の取材相手だ。
武藤さんは、高度経済成長期の1966年に大蔵省に入った。城山三郎氏の小説「官僚たちの夏」のように、官僚が国のグランドデザインを描く世界が、まだそこにはあった。
武藤さんが幹部に昇進した平成に入ると、そんな世界は終わっていった。長い不況で暮らしが悪くなった国民の不満の矛先は、官僚にも向かった。
大蔵省が「護送船団」で守ってきた金融システムは危機に見舞われ、接待スキャンダルが大蔵官僚の信用を地に落とした。不安定になった政局のもと、政治家は財務省が訴える消費増税に耳を貸さなくなった。
武藤さんは財政再建について「時間をかけてでも努力を続けなければなりません」と訴える。一方、「政治生命をかけて増税するのを、与党に期待するのは冷静に考えて難しい」とも口にする。
交錯する財務官僚としての矜持とあきらめ――。平成の間に打ちのめされたエリート集団の、苦しい胸中が垣間見えた。
消費税は、高齢化で増加する社会保障費をまかなう狙いで導入されましたが、実際には増税が進まず、国の借金が膨らみました。
高齢化がピークを迎える2040年ごろを見据えて大和総研が試算したところ、年金支給額の削減、医療や介護の自己負担の引き上げといった厳しい社会保障費の抑制を実施したとしても、30年代半ばには20~25%の消費税が必要、との結果になりました。
導入後、25年で3%から8%までしか上げられなかった消費税を、今後20年弱で最低12%分は上げざるを得ないことになります。従来のペースでは間に合わないでしょう。
増税が一時的に景気を下押しするのは事実です。景気の悪化を絶対に避けるなら、増税はできないことになります。
今までの経験からして、消費増税を計画するのは、実行する2年前です。景気がよいときに計画したとしても、いざ増税しようとするときに景気がよいかは怪しい。したがって、かなりの確率で増税は頓挫します。
非常に難しいことですが、いつでも増税できるようにしておいて、世論が熟したら直ちにやるやり方を考えておかないといけないのではないでしょうか。
平成の間に官僚の力が落ちて、政治家の力が強まったと言われます。しかし、仮に官の力がどんなに強くても、増税を官僚が決めることは無理だと思います。増税の決定は(昔から与党の税制調査会が議論する)全く政治的なプロセスだからです。
政治家は「国民の声を聞く」とよく口にしますが、何でも国民の声で決めるなら、世論調査で国政をすればいい。政治家は不要です。時には「苦い薬を飲まないといけない」と国民を説得することが、真の政治判断ではないでしょうか。
英国のチャーチル元首相は「民主主義は最悪の政治と言える」との有名な言葉を残しました。民主主義の投票行動で、国民が自らの負担増を決めることを期待するのは、並大抵のことではありません。
与野党の勢力が拮抗している状況で、与党が増税、野党が減税を主張すると、恐らく選挙で政権交代になります。消費増税は政治生命をかけることになります。そこまでのことを政治に期待するのは、冷静に考えると難しいのかもしれません。
だから、財政再建は与野党が対立していてはできません。財政再建を与野党の争点にしない環境を、オピニオンリーダーはつくる責任があると思います。
平成という時代は、リスクが蓄積し続けた時代でした。
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