財務省出身の自民党若手政策通が訴えるのは「実現可能な財政再建策」である
2018年07月15日
最終回は政界の若手議員から村井英樹・内閣府政務官に代表して登場していただく。
自民党が大量の当選者を出したいわゆる「魔の3回生」世代だが、財務官僚として経験を積んできた。税財政に明るく、政策通だ。
同じ30代の小泉進次郎氏とは政策的な盟友関係にある。自民党の若手議員約20人が集まった、いわゆる小泉小委員会で「人生100年時代」に備える政策の必要性を訴えてきた仲間だ。そこから「こども保険」などの具体策も次々と提言してきた。
村井氏らがめざすのは、若い世代、将来世代が生きる新しい時代の社会制度設計。人口減少と超高齢化が進み、かつ超長寿の社会での政策のあり方、生き方だ。そこでも必ず持続可能な財政は必要となる。
若き政治家が訴える財政健全化の意義と戦略をお聞きいただきたい。
経済が良くならないと税収は増えません。「経済再生なくして財政再建なし」というのは間違いない。いい経済状態をどれだけ維持できるか、好調をできるだけ維持して適切な財政再建策を講じれば、財政は十分に持続可能です。
平成という時代を振り返ると、消費税をいつ、どのように引き上げたら良かったかという点で反省があります。消費税は平成元年(1989年)に導入されました。高齢化でどんどん社会保障費が伸びるので、収入が安定的で世代間で公平な消費税という税で対応しましょう、と考えたのです。
ところが平成30年の今、ふりかえると、思ったより消費税は上げられなかった。8%止まりです。しかも、実質的に増税できたのは税率8%にするときだけ。他はすべて減税とセットで、実質的な増税ではなかった。
何が問題だったのか。もっと経済を大切にしながら消費税を上げるべきでした。1997年の税率5%にするときも、2014年の8%にするときも、経済失速を繰り返した。上げるタイミングの問題もあったし、失速させないための十分な財政措置もやれなかった。その結果、消費税が「鬼っ子」扱いされるようになってしまったのが反省です。
いま金融・財政政策をめぐっては、リフレ派的なイケイケドンドン派と、財務省的に「たらずまい」は消費税率引上げで対応する派がある。私はどちらでもない。新しい財政再建、持続可能な財政の方法を模索すべきだ、という論者です。
まず「消費税一本足打法」からの脱却です。平成時代のフレームは、歳出の伸びを消費税でカバーしようという枠組みになっていた。消費増税はいわばホームラン。一発(1%)で2.5兆円もの財源がとれる。それでやろう、となったとたんに他の取組みがものすごく小さく見えてしまう。だが、実はヒットの積み重ねが大事です。
一番のヒントは社会保険。社会保険は特定財源です。財政学の教科書的には「特定財源は歳出を拡大させてしまう(歳入が不要な歳出を生む)のでよくない」と書かれています。ただ、例えば年金、医療、介護、子育てという、ほぼ確実に歳出が歳入を上回る分野について特定財源的に歳入を確保するなら、むしろ正しいのではないでしょうか。
恥ずかしながら政府や行政が信頼されていない現状にあっては、何に使われるかわからない歳入措置より、受益と負担が直接的に結びついていて使い道が明確な歳入措置のほうが国民の皆さんに納得していただけます。
それに社会保険は給料からの天引き。直接的な痛みが少ない。歯を抜くときに「痛いですよ」と言って抜かれるのと、「麻酔をかけるので、いつのまにか抜けてます」と言って抜かれるのでは違うのです。平成という時代はそのことを我々に教えてくれました。
私も実は消費税はもっと引き上げなきゃいけないと思っています。でも。30年間やって結局できなかった。政治家のせい、政策のせい、メディアのせい……いろいろあるが、30年間でこの結果というのは、誰が悪いのでない。やり方が悪かったのだと考え直す時期にきていると思います。
「正々堂々と消費増税を訴える」と言えば聞こえはいいですが、行動経済学や心理学も政策の現場で採り入れるべきです。国民がなるべく痛みを感じない形で負担をお願いする、というのが正しいのではないでしょうか。
TAXという言葉は「税」と訳していいのかどうか。税という言葉は稲穂をはぎとる、という意味らしい。何に使われるか分からないけどお上にもっていかれちゃうという世界の言葉です。一方、TAXの語源はチケットです。つまり民主主義への参加料であり、行政サービスを受けるための会費。北欧の人たちは、付加価値税25%というのは高いけれど、行政サービスとして戻って来る、と考える。これは日本語に置き換えたら社会保険料的なものではないかという気がします。
2000年代に入って、政府の社会保険料収入は税収を追い抜いています。これを読み解いていったとき、政治コストをかけて、何度も解散して、民主主義のコストを払い続けながら、消費税の一本足打法に頼るのか、むしろ社会保険料みたいな仕組みで静かに歳入を確保していくのか、見直すべき時期に来ていると思います。
経済同友会は消費税17%以上に上げるべきだと言っています。ただ、政策の現場にいる者として、次の10年、20年で実現できるとはとても思えません。それを30年間の反省から学ばないといけない。
実現可能な歳入確保策を考えていく、というのがポスト平成の財政再建のやり方ではないでしょうか。それが、たとえば勤労者皆保険であり、こども保険であり、社会保険を利用した新たな歳入確保策はいろいろあります。炭素税でも兆円単位でとれる可能性があります。そういうヒットを重ねていくことが必要です。
さらにいえば、財政・社会保障をスタティックに議論するのではなく、ダイナミックに考える必要があります。つまり、現在の経済社会構造が変わらないことを前提に、負担増や給付カットを考えるのではなく、「働けば働くほど得をする年金制度(人生100年型年金)」などの社会保障改革によって個人の行動変容を促し、経済社会構造をダイナミックに変えることで、結果的に「歳入増の必要額」を抑えていくという発想が重要です。
我々世代は社会保障などで苦しい立場におかれていますが、何とか経済社会の様々な仕組みを持続可能にして次の世代につなげていくことが使命であり、宿命だと思っています。「べき論」はたくさんありますが。いまの財政の状況みたら、なりふり構っていられません。どうゴールに少しでも近づくべきか、実現可能な政策をみんなで知恵をしぼるときです。(聞き手・原真人)
このインタビューシリーズには政界や官界、学界、経済界などから10人の有識者の皆さんにご登場いただいた。
初回に説明したように、財政に詳しいだけではなく、それぞれがこの平成の30年間に何らかの形で財政にかかわった「プレーヤー」たちでもある。
その10人に、私たちが目の前にしている日本の財政の惨状は、なぜ、どのようにして生まれたのか、その責任は誰にあるのか、いつが転機だったのか、を語っていただこうというのが企画の狙いだった。
すべてを聞き終え、こうしてインタビューシリーズをまとめてみると、その狙いはかなり当たったのではないかと自負している。
もちろんこれは世論調査ではないから「10人のうち何人が主張した」という数字そのものにあまり意味はない。メンバー構成が財政再建論者に偏りがある、というご批判もあるだろう。
それでも、さまざまな立場でこの30年間の財政運営の経過と顚末を見てきた有識者たちの「総括」意見がかなりあぶり出されたのではないだろうか。
消費税を上げられない政界と財務省のはざまで正論をぶつけ続けた元政府税調会長・石弘光氏、消費税創設の竹下政権を支えた元大物官房副長官・石原信雄氏、自民党税調で会長などの要職を務め、社会保障と税の一体改革を推進した影の立役者、柳沢伯夫氏、消費税が封印された時代に苦闘した元大物財務次官の武藤敏郎氏らは、政治家や官僚の立場から、試行と失敗、挑戦とあきらめを繰り返してきた平成の財政を語ってもらった。
勤労者・生活者の立場から財政改革の必要性を訴える神津里季生氏、ビッグピクチャーを描きつつ財政を楽観する堺屋太一氏、歴史的な観点、教訓から現代の財政をながめる出口治明氏、政府・日銀の財政ファイナンスを一貫して批判し続ける河村小百合氏、官僚や日本銀行マンから最も信頼されてきた経済学者・池尾和人氏らからは、財政と無縁ではありえない国民の立場から批判と問題提起がされている。
最終回は、10人のなかで最も若い38歳の村井英樹氏に締めてもらった。おそらくこれから数十年にわたって日本の財政に責任をもたねばならない若き政治家の視点、希望が財政健全化に欠かせないと考えたからだ。
村井氏ら自民党の若手議員の問題提起で、安倍政権の重要政策に格上げされた「人生100年時代」構想。それは長寿化リスクの問題であり、中心は社会保障問題だ。そして社会保障を支えるものは財政である。現世代も、将来世代も、この問題から誰も目をそらすことはできない。10人の提言はそれぞれバラエティーに富んでいたが、その点に関しては同じメッセージがこめられていたと思う。
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