メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

取締役に答弁を振る社長たち

株主総会の変化が遅い。もっと実りある対話の場に

根本直子 早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授/アジア開発銀行研究所、 エコノミスト

2018年6月22日、東京都港区

議決権は活用され始めたが…

 コーポレートガバナンス(CG)改革が実施されて3年が経過した。この間、上場企業では2名以上の社外取締役を任命する企業の比率は2014年の22%から2017年は88%に増加。取締役会の構成は大きく変わった。

 機関投資家の行動指針である「スチュワードシップ・コード」が導入され、議決権行使の結果の開示が進み、生損保、銀行にも投資家としての監視責任がより問われるようになった。最近は、総会の招集通知が早めに送付され、書面やインターネットによる議決権行使が可能になるなど、株主の権利を確保する施策がとられている。

 CEO(最高執行責任者)の選任案など、会社が提案する議題への反対票の比率も以前より増えている。こうした変化は、経営に緊張感を与えると期待される。

経営者と株主の対話の場

 ただし、会社が提案する議題は、取締役の選任など特定の問題に集中しており、議決権行使が万能薬というわけではない。年金積立金管理運用独立行政法人のスチュワードシップ活動報告書によれば、2017年度の株主議決権行使状況を件数の多い順にみると、取締役の選任に関する議題が全体の77%、監査役の選任が8%、配当が6%であった。

 何よりも企業統治の根幹ともいえる株主総会の運営や一般株主との対話については、変化が遅いと感じる。従来日本の株主総会は、「決議を滞りなく進める」ことに重点が置かれ、経営方針を株主に伝え、対話を深めることは軽視されがちだった。

 企業の意思決定は総会の主要な役割であるが、一方で経営者と株主の対話の場、という意義も見逃せない。総会に出席する株主の多くは、中長期的な利益の見通しや、成長戦略、リスクへの対応について、経営者の生の声を期待している。それについて十分に発信されているかは、検証する必要がある。

東芝の株主総会の会場に入る株主たち=2017年6月28日、千葉市美浜区

米国は「Our Company」 日本は「当社」 

 知り合いの米国人の投資家は、日本に本社のあるグローバル企業の株主総会に本年初めて出席し、米国との違いに驚いていた。第一は、経営者が説明に際して自社のことを「当社」と呼んでいること。米国ではアワーカンパニー(私たちの会社)、あるいはユアカンパニー(あなたの会社)が普通であるという。

 第二に社長の考えを聞く時間が少なかったという。業績報告はビデオで行われ、株主からの質問が始まると、社長は議長に徹して他の取締役に回答を振っている。事務方の作った回答を読み上げることが多く、経営者のビジョンや個性が伝わってこない。また回答が不十分でも特にフォローの機会もない。

 第三に、経営戦略や、中長期的企業価値に関する質疑が少ない。サービスや、製品についての個人的な経験や不満などが多く、株主一般の利益を代表した質問が少ない。

 株主総会は企業によってかなりの違いがあり、最近は株主とのコミュニケーションを重視する企業が増えている。とはいえ、防衛的、消極的な色彩が依然として残っている。

 その背景としては、総会屋対策に苦労してきた過去の経緯がある。また制度的にも取締役会への権限委譲が進んでいる米国に比べて、日本の株主は広範な権限を持っている。一例として、米国では剰余金配当と取締役の報酬の決定は株主総会の権限ではないが、日本は株主総会で決定される。

 今後株式の持合い解消が進み、「物言う株主」が増える中で、会社の議案をどう承認してもらうのかは大きな問題だ。IRミーティングなどで機関投資家の理解を得ることも重要だが、それに加えて株主総会を魅力あるものに変え、ファンを増やしていくことも検討してはどうだろうか。

 やや極端な例だが、投資家ウオーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハザウエイの株主総会は、前の席をとるために4時間前から行列ができる。バフェット氏はチェリーコークを飲みつつ、ユーモアを交えて約5時間、様々な株主と対話をする。そのためにネブラスカ州の人口40万人の町に、4万人が集まって来る。

「滞りなく」から「刺激的」へ

 日本の株主総会を「開かれた対話の場」とするために、以下のような対応をとってはどうか。

・・・ログインして読む
(残り:約437文字/本文:約2153文字)