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「人生100年時代」の暮らし方

大切な主観的健康寿命、「老いる力」を鍛えよう!

土堤内昭雄 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー

「人生100年時代」が訪れる

 日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳。近い将来、「人生100年時代」が訪れるという。百歳高齢者表彰が始まった昭和38年の百歳以上はわずか153人だったが、昭和56年に千人、平成10年に1万人、平成24年に5万人を超えた。平成29年9月には67,824人になり、女性が全体の約9割を占めている。わが国は急速に「人生100年時代」へ向かっているのだ。

 このような長寿時代に向けて、長くなった人生を全うするために、教育、雇用、社会保障などのあり方が見直されている。年金財源が厳しい中、われわれは今後、一層長く働き続けることが求められる。平成25年に高年齢者雇用安定法が改正され、厚生年金の支給開始年齢が3年ごとに1歳ずつ引き上げられることに伴い、2025年度までに企業は65歳までの継続雇用を義務付けられた。

 年金の支給開始年齢の更なる引き上げも検討されている。長くなる職業生活で新たな仕事のスキルを身につけるためのリカレント教育の重要性が増すだろう。今後、雇用が延長された場合、退職後に元気に過ごせる時間が短くなる可能性もある。人生の高齢期を本当に楽しむためには、健康増進や体力維持が欠かせないのだ。

平均寿命より健康寿命

 長寿時代を生き抜くために、健康志向が高まることは必然だ。日本では健康増進法に基づき、2000年に『21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)』が始まった。2013年には全面改正が行われ、『健康日本21(第2次)』には健康増進のための基本方向として、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が掲げられている。

 日本人の平均寿命は、2001年から2010年の10年間に男性で1.48年、女性で1.37年延びた。一方、健康寿命の延びは男性で1.02年、女性で0.97年にとどまっているのだ。つまり不健康な期間が、男性で0.46年、女性で0.4年長くなっている。そのため『健康日本21(第2次)』では、「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」を目標にしている。

 多くの人は健康に長生きしたいと願っている。2016年の健康寿命は、男性72.14歳、女性74.79歳。健康寿命と平均寿命との差は、男性8.84年、女性12.35年もあるのだ。平均寿命が延びる長寿時代には、介護・看護が必要な期間は長くなり、要介護のリスクが高まっているのである。

シニア層の健康志向

拡大平日の昼間、ジムでエクササイズをする人たち=東京都内
 最近のフィットネスクラブを覗くと、どこも元気なシニアの人たちであふれている。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」によると、平成29年のフィットネスクラブの売上高は3,330億円、延べ利用者数は2億5,200万人と、増加の一途をたどっている。その背景には長寿化に伴うシニア層の根強い健康志向がある。

 厚生労働省「平成28年国民健康・栄養調査の結果の概要」をみると、運動習慣のある者(1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者)の割合は、全体で男性35.1%、女性27.4%だが、年齢階級別では60代の男性が36.6%、女性が35.9%、70歳以上では男性49.4%、女性37.4%にのぼる。男女ともに運動習慣のあるシニア層が多くなっている。

 退職後も生き生きと暮らすためには、地域や社会との関係性を維持することが重要だ。定年後に社会的孤立に陥る人もいる。フィットネスクラブに通うシニアたちは、身体的な健康だけでなく、他の人々との会話やつながりを通じてメンタルな健康も求めている。むしろその効果の方が、長寿時代にはより重要かもしれない。

重要な主観的健康寿命

 幸せに暮らすためには健康寿命を延ばすことが重要だが、「自分が健康であると自覚している期間」についても留意する必要がある。主観的健康寿命とも言える同期間は、客観的健康寿命を下回っており、その延びは2001年から2010年までの間に男性で0.35年、女性で0.37年に過ぎない。

 人が幸せになるひとつの条件として「健康」を挙げる人は多い。しかし、高齢化が進むと加齢により健康状態が万全でなくなるのは当然のことだ。だれもが老化による衰えを経験する時代には、なにがなんでも健康でなければならないという健康志向に縛られる必要はない。むしろ上手に「老いること」と向き合うことが重要だ。

 「人生100年時代」を幸せに生きるためにジム通いに熱心なシニアの人たちが大勢いる。客観的な健康寿命を延ばす努力は言うまでもないが、同時に、超高齢社会ではなんらかの健康上の制約があっても、自らが幸せと思える主観的健康寿命が大切だ。ケガや病気などともうまく付き合い、老化を自然体で受け入れることが、「人生100年時代」を幸せに生きる上での重要なヒントではないだろうか。

「老いる力」を鍛えよう

 長寿時代を迎えた今日、「終活」という言葉をよく耳にする。「終活」とは、葬儀や相続など人生の最期を迎えるための準備であるとともに、長くなった高齢期を幸せに生きるウェル・エイジングとしての活動だ。そこで重要になるのが「老いる力」だ。「老いる」とは一体どのようなことなのだろうか。

 天田城介著『老い衰えゆくことの発見』(角川選書、2011年)には、『<老い衰えゆくこと>とは、「できない現在の自分」「できなくなった現在の当事者」に直面しながらも、それでも「できていた過去の自分」ないしは「できていた過去の他者」のイメージに引きずられ、それに深く呪縛されながら苦闘する日々の出来事なのだ』とある。

 つまり、「老いる」とは成長神話との葛藤のなかで、自己のさまざまな能力の衰退・喪失の変化を自尊心を持って受け入れるプロセスということなのか。過去の「できた自分」に呪縛されるのは、自分自身が「成長」という価値観に支配されているからかもしれない。高齢期にはこれまで人生を評価してきた「成長」という物差しに替えて、新たな価値観に基づいて生きるという意識の切り替えが必要ではないだろうか。

 「老いる力」はアバウトでいい加減に生きる「あそび」の力でもある。それは今日の日本の社会デザインにも求められる。日本社会では論理的、効率的、合理的なことばかりに目を奪われ、直感や非合理性などの要素を加えた多元的視点が薄らいでいるように思える。現代社会は「あそび」を失っているのかもしれない。

 「老いる力」は多様性を発見し、「あそび」を生み出す。多様な人材構成の組織や社会は活力を有し、「あそび」が加わることで安全性と安心感が増す。長寿社会「老いる国・日本」にとって、潜在化する膨大な「老いる力」を有効活用することが重要だ。「人生100年時代」こそ、個人も社会も既存のパラダイムにとらわれず柔軟に思考できる「老いる力」を鍛えることが求められている。

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筆者

土堤内昭雄

土堤内昭雄(どてうち・あきお) 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー

1977年京都大学工学部建築系学科卒業、1985年マサチューセッツ工科大学大学院高等工学研究プログラム修了。1988年ニッセイ基礎研究所入社。2013年東京工業大学大学院博士後期課程(社会工学専攻)満期退学。 「少子高齢化・人口減少とまちづくり」、「コミュニティ・NPOと市民社会」、「男女共同参画とライフデザイン」等に関する調査・研究および講演・執筆を行う。厚生労働省社会保障審議会児童部会委員(2008年~2014年)、順天堂大学国際教養学部非常勤講師(2015年度~)等を務める。著書に『父親が子育てに出会う時』(筒井書房)、『「人口減少」で読み解く時代』(ぎょうせい)など。

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