
TPP11の署名を終え、並んで手を振る閣僚ら2018年3月9日、チリ・サンティアゴ
米国から「301条」を奪ったWTO
8月2日付けの日本経済新聞は「トランプ旋風を奇貨にWTOの改革を」と題する社説を掲載した。機能不全に陥っているWTOを改革するために、WTO全加盟国ではなく限定された国が参加するプルリ協定(参照:日本はタナボタ? 米欧の自動車関税回避策)による新分野の貿易自由化等を提案している。
米中貿易戦争を引き起こした対中関税引上げの根拠となったのは、アメリカ通商法301条である。アメリカ政府が不公正な貿易を行っていると判断する国に対して、アメリカ政府が検事兼裁判官となって一方的に制裁措置を講じるというものである。
1980年代から90年代初めにかけて日米貿易摩擦が激化した。アメリカの一方的措置による恫喝的行為に悩まされてきた日本は、WTOを設立することになったガット・ウルグァイ・ラウンド交渉で、WTOの紛争処理手続きを経なければ一方的措置を講じることはできないと規律することに成功した。
この結果、301条などの一方的措置はWTO非加盟国にしか適用できないことになった。前身のガットに比べて、WTOはより充実した司法(裁判)機能を持つことで、アメリカ政府が裁判官として判断する機能を奪ったのである。
もちろん、アメリカは検事役となって、WTO違反措置を講じている国をWTOに告発(提訴)することは可能であるが、これは全てのWTO加盟国に認められた権利である。
中国を規制するためのWTO改革