日米自動車産業の勝敗を決するのは中国市場だ
トランプ貿易戦争の敗者は米国自動車業界である。日本は勝ち組になるかもしれない
山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

スバルが公開した米国の組み立て工場=2018年8月2日、インディアナ州ラファイエット
日本の自動車業界は本当に悪影響を受けるのか
トランプ政権は自動車の関税を現行の2.5%から25%に引き上げることを検討している。
8月4日付朝日新聞によると、日本の自動車業界は、日本から輸出する完成車の価格は一台当たり66万円(6千ドル)コストが上昇する一方、現地で生産する場合でも輸入部品に関税がかかるため一台当たり2千ドルのコストが上昇すると試算している。これは完成車の3分の1に相当する。現地生産車でもざっと8%(22.5%×3分の1)の追加関税がかかる計算だ(輸出車も現地生産車も同じ価格の車と仮定しての計算であり、後述するように現地生産車の価格が低い場合、2千ドルはより大きな関税率に相当する)。
同紙は「関税がかかったら、価格を上げざるを得なくなるので、販売台数は減少する。国内生産300万台維持は困難となる」というトヨタ自動車の幹部の声を紹介している。
安倍首相は9日から開始される日米通商協議で、TPPでの譲歩を上回る農産物の関税引き下げ(アクセス拡大)は困難であること、アメリカによる自動車の関税引上げは回避することの二点を、茂木大臣に指示したと言われる。
しかし、心配するような影響が日本の自動車業界に本当に起きるのだろうか。確かにアメリカ市場での収益は減少するだろうが、別の展望も開けてきた。
日本車は日本から輸出されているだけではない
最初に、トランプの関税引上げで、アメリカ市場において、日本とアメリカの自動車業界どちらに影響が強く出るかを分析しよう(数値は出所や年次がまちまちだったりするが、おおよそのイメージをつかんでもらいたい)。
朝日新聞によれば、アメリカ市場において販売される日本車の比率は4割で約700万台。そのうち日本からの輸出は170万台、メキシコなど日本以外から輸出されるものは154万台。アメリカでの現地生産は376万台で日本車の半分以上を占める(2017年)。
現地生産がこれだけの割合を持つようになったのは、1980年代以降日本の自動車業界がアメリカとの貿易摩擦を回避するため、現地で自動車工場を建設してきたからである。日本政府がトランプ政権に対して、日本の自動車業界はアメリカの雇用創出に貢献してきたと強調した所以である。
アメリカの自動車業界はどうだろうか? アメリカの3大自動車メーカーが国内で生産する台数は656万台(2016年)。メキシコからの輸入車約240万台のうち6割がアメリカ企業によるもので約140万台。つまり、アメリカ車にも海外で生産され、アメリカ市場に輸入されているものが相当あるのだ。
アメリカ企業の現地生産車のコストも上昇する