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日米自動車産業の勝敗を決するのは中国市場だ

トランプ貿易戦争の敗者は米国自動車業界である。日本は勝ち組になるかもしれない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大米ゼネラル・モーターズ(GM)のピックアップトラック。消費者の大型車シフトで好調だったところに貿易摩擦が襲った=2018年1月16日、デトロイトの北米国際自動車ショー
 アメリカ国内の生産でも、輸入部品には関税がかかる。アメリカ企業も日本企業と同様の比率で海外から部品を調達しているとすれば、8%のコストアップとなる。

 アメリカ企業の海外からの部品調達率は日本企業よりも低いかもしれない。しかし、日本の部品産業も自動車産業のアメリカ現地生産の増加に伴ってアメリカに進出してきており、海外からの部品調達率についての日米企業の差は縮小しているものと考えられる。

 いずれにしても、アメリカ企業が国内生産する場合でもコストアップになることは間違いない。ここでは、アメリカ企業のコストアップを5%と仮定しよう。

 東日本大震災の際、黒い塗装インクを東北の工場から輸入できなくなったアメリカの自動車工場は操業停止を余儀なくされた。アメリカ企業も世界のサプライチェーンの中にある。現在では、世界貿易全体の6~7割は部品の貿易である。

 しかし、あまり指摘されていないようだが、現地生産のコストアップ要因はこれだけではない。

 トランプ政権は鉄鋼の関税を25%引き上げた。これは鉄の塊のような自動車のコストを引き上げる。さらに、中国からの輸入品への関税引き上げによって、自動車部品以外の原材料や器具などのコストも上昇している可能性が高い。これら鉄等の自動車製造コストに占める比率が20%だったとすると、これらへの25%の関税賦課は、完成車のコストを5%引き上げることになる。合計すると現地生産車は10~13%のコストアップとなる。

 アメリカ企業も、メキシコからの輸入車だけでなく国内で生産するものも含めて影響を受ける。価格に転嫁できなければ、コストアップは企業の負担となる。だからこそ、日本企業だけでなく、GMなどのアメリカ企業も、公聴会で自動車関税引き上げに反対したのである。

輸入完成車と現地生産車のコスト上昇の差は?

 当然ながら、日本では鉄等の関税引上げはない。メキシコも報復措置として鉄鋼製品の関税を15~20%引き上げたが、鉄鋼の輸出国なので国内の価格が上昇するとは考えられない。日本やメキシコからアメリカ市場に輸出する完成車にかかる追加関税は22.5%であるが、自動車部品や鉄等の関税引上げの影響を受けるアメリカ国内の生産車と比較すると、実質的なコスト上の不利は10~13%程度に過ぎない。アメリカ国内の生産車の優位性は、追加関税の半分程度に留まるのだ。

 輸出完成車については、アメリカ市場への日本車の輸出は、日本からと日本以外からを含めて220~230万台、同じくメキシコ等からのアメリカ車の輸出は140万台。22.5%のコストアップになる輸出完成車では日本車がアメリカ車を6割上回り、10~13%のコストアップとなるアメリカ国内の生産車では、アメリカ車が日本車を7割上回る。

 この数字だけからは、アメリカ企業も打撃を被るが、日本企業の打撃の方が大きそうである。ある意味、トランプはアメリカの自動車産業を日本やヨーロッパの自動車産業から守ろうとしたのであるから、これは当然の結論である(ただし、彼はアメリカ企業もコストアップの影響を受けるとは考えていなかったに違いない)。

 しかし、残念ながら、コストアップだけでは日米企業の影響の大きさを判定できない。最終的に両国の企業の収益・利潤がどうなるかが問題だからである。

米国市場では痛み分け

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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