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日米自動車産業の勝敗を決するのは中国市場だ

トランプ貿易戦争の敗者は米国自動車業界である。日本は勝ち組になるかもしれない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 コストアップ率は価格上昇率と同じではない。日本企業もアメリカ企業も関税によるコストアップを価格に転嫁しようとするだろう。どれだけ価格に転嫁できるかは、その車の性質や消費者の評価などに依存する(これからが経済学の出番である)。

 もし、その車に、乗り心地の良さ、燃費効率の良さや事故率の低さなどの性能の高さがあり、他に代替する車が少ないとすれば、消費者は価格の上昇を嫌々ながらも受け入れようとするだろう。このとき企業はコストアップのかなりを価格に転嫁できるので、関税による負担は少なくなる。

 これに対して、似たような性能の車がたくさんあるような場合には、価格を少しでも高くすればライバル企業に消費者を取られかねない。このとき企業はコストアップを価格に転嫁しにくいので、負担が大きくなる(経済学的に言うと、前者は価格が非弾力的なケース、後者は弾力的なケースである。もちろん、理論的には価格転嫁は供給の弾力性にも関係する。輸出台数の年変動が大きいことから、日本車の供給は相当弾力的であると考えるが、その時は転嫁しやすくなる)。

 日本企業が現地で生産しているのは、トヨタでいえばカローラやカムリなどの大衆車である。これら日本車に対するアメリカ国内の評価が高く、燃費の効率性等で劣るアメリカ車はその代替品とはなりえない(消費者の日本車への信頼感やロイヤリティが高い)とすれば、価格の転嫁は容易だ。逆に価格を上げると消費者を日本車に取られかねないアメリカ企業は、コストアップを自ら負担することとなる。

 他方、日本から輸出しているのは、トヨタでいえばレクサスという高級車である。これは差別化商品なので、価格転嫁は比較的容易だろう(もちろん、価格を転嫁できても販売量は減少する。しかし、価格が非弾力的な場合は減少は少ないし、また企業として重要なのは、販売量の減少よりも利潤の減少の度合いだろう)。

 価格転嫁を考慮すれば、日本企業の打撃がアメリカ企業より大きいとは必ずしも言えない。双方痛み分けといったところだろうか。

 しかも、この場合価格転嫁の影響を受けるのは、アメリカの消費者である。アメリカの企業も消費者もトランプの関税引上げの被害者となる。

 日本企業にはもう一つ対応する道がある。それは、コストアップの少ない現地生産の比率を高めることである。国内の生産比率は減少するが、日本企業はアメリカ生産による利益を社内に還元することができる。

勝敗を決するのは中国市場だ

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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