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フェイクかどうかを誰が決めるかで議論沸騰

GENサミット報告(下)―救われない内部告発者の苦悩

小林恭子 在英ジャーナリスト

「GENサミット」報告(上)

拡大GENサミットはポルトガル・リスボンのコメルツ広場に設置された会場で開催された(筆者撮影)

フェイクニュースを発しているのは誰か

 「GENサミット」の多くのセッションの中から、日本でも関心が高い、いわゆる「フェイクニュース」関連についての1つを最初に取り上げてみたい。

 パネリストはオーストリア・ウィーン大学のアーノ・シャール教授、インドのメディア大手「インディア・トゥデー・グループ」会長アルーン・プーリー氏、政治ニュースの事実検証を行う米サイト「ポリティファクト」のエグゼキュティブ・ディレクター、アーロン・シャロックマン氏、米アリゾナ・ステート大学のダン・ギルモア教授である。

 「フェイクニュース」が大きく問題視されるようになったのは、2016年の米大統領選中、ネット空間で真実ではない情報を故意に入れたニュースや誤情報が氾濫した時だ。こうしたニュースを拡散するプラットフォームの1つになったフェイスブックのザッカーバーグ最高経営責任者は、謝罪に追い込まれた。世界各国ではニュースがフェイクかどうかを検証する、「ファクトチェック」を行うサービス、組織、プロジェクトが続々と生まれた。

 しかし、優れたファクトチェック・サービスを使って「この記事はフェイクだ」と判定を下しても、その記事がすでに広く拡散されてしまっている場合、どうするのか。また、為政者側が気に入らないメディアのニュースを「フェイクニュースだ」と批判する例も散見されるようになった事態をどう変えるのか。

 5月31日のセッション「ニュース・リテラシー2020:いかに間違った情報を理解し、闘うか」で、パネリストの一人となったギルモア氏は人々のニュースに対する解読力を高めるには「教育が必要」で、既存メディアが果たす役割は大きい、と述べた。

 しかし、シャロックマン氏は後者に疑問を投げかける。「既存メディア自身も信頼感を十分に与えているだろうか」、と。

 「例えば米ニューヨーク・タイムズ紙は匿名の情報源を基にして書かれた記事を出している。どうやってその情報を得たかは書かない」。ニューヨーク・タイムズというブランドを信じる人は、この新聞を信頼して読むが、匿名及び情報取得過程の不透明さによって、「信じない、という人もいると思う」。

 プーリー氏は、「既存のニュースメディアはフェイクニュースを作らない。作るのはソーシャルメディアだ」と言い切る。

 「しかし、一体何人がどれがフェイクでどれがフェイクでないかを知りたがっているだろう?人は信じたいことを信じるものではないか?」

 最終的に「読者は信頼できる情報源に戻っていくだろう」。プーリー氏が想定する信頼できる情報源は主として、既存のニュースメディアを指しているようだ。

 シャロックマン氏は、「誰でも間違った情報に引っかかってしまうことがある」と指摘する。

 同氏の指摘は、個人的に腑に落ちた。

 ある時、フェイスブック上で筆者の友人がアップルの創業者スティーブ・ジョブズの「最後の言葉」を載せたウェブサイトをタイムラインに上げていた。筆者はその内容に感銘を受け、これを自分のタイムラインで共有した。

 友達のタイムラインにあったことと、内容がいかにも「ジョブズらしい」ように思え、すぐに信じてしまったのである。そのウェブサイトについて、まったく知識がなかったにもかかわらず、である。後でほかの友人たちからそれが偽情報であることを指摘された。

 シャロックマン氏は「嘘の情報を拡散する人をその場で判断しないように」とアドバイスする。

 例えば自分から見れば明らかに嘘と思える情報・ニュースを親戚が信じていたとしよう。そこで「あの人は情報の識別力が低い」、「政治に対する見方が全く違う」などとしてあきらめるのではなく、「会話をすること。なぜその情報が正しいと思うのかを聞いてみること」を勧める。「私たち全員の問題としてとらえるべき」。

 ギルモア氏は、「フェイクニュース」という言葉を使わないようにするべきだ、という。「フェイク(偽の)」という言葉が「ニュース」の隣に来てしまうことを問題視する。「ニュースとは事実・真実を伝えるもの」としたら、「フェイク」という言葉が前につくのはおかしいのでは、と指摘する。

 また、フェイクニュースは「いつも嘘をつく人や自分とは異なる意見を持つ人に対して、『それはフェイクニュースだ』と述べる言葉になってしまっている」という。この時、聴衆には米CNNやニューヨーク・タイムズを「フェイクニュース」と呼ぶトランプ米大統領が思い浮かんだはずだ。

 ニュースが真実なのか偽りなのかの判断には「時間をかけること、すぐに共有しないこと」とギルモア氏は述べた。

 シャール教授は、「検証ツールによって偽情報を振り分ける」よう、呼びかけた。

偽情報拡散への対処法は?

拡大間違った情報と闘うためのセッションで。左からシャール氏、プーリー氏、シャロックマン氏、ギルモア氏(筆者撮影)
 では、いったいどうやって間違った情報の拡散を防ぐのか?

 パネリストたちの意見は分かれた。

 プーリー会長は、インドは今「瞬時に火が付き、これが拡大するマッチ箱」状態にあると説明する。

 インドはフェイスブックの傘下にある対話アプリ「ワッツアップ」の利用が盛んな国で、利用者は2億人を超えるといわれている。このアプリを使って広がるうその情報によって集団暴力事件が何件も発生し、死者も出ている状態だ。

 会長は、「グーグルやフェイスブックにはプラットフォーマーとしての責任がある。フェイクニュース拡散の責任を取るべきだ」と述べる。

 しかし、ギルモア教授は「慎重に考えるべきだ」とし、「グーグルやフェイスブックが(どれがフェイクでどれがそうではないかを)決めるべきではない。流通する情報の編集者になるべきではない」と反論。

 これに対し、プーリー会長は「すでに大手プラットフォーマーは『編集者』になっている」と返した。

 ギルモア氏は「判断するのは利用者であるべきだ。グーグルやフェイスブックは利用者が判断するためのツールとして機能するべき。共同作業になるだろう」。

 シャロックマン氏は自らの事実検証サイト「ポリティファクト」は両プラットフォームと「協力しながら作業を進めている」と発言した後で、偽情報が氾濫しても「何らかの規制がかかる方向には賛同しない」と述べた。「フェイスブックの存在は巨大でそれ自体が問題だが、だからといって政府機関にフェイスブックの代わりにネット空間を規制して欲しいとは思わない」。

 最後に、将来の見通しを聞かれたパネリストたちの中で、シャロックマン氏は「米国には事実検証プログラムに投資を望む人がたくさんいる」として、楽観的な見方を述べた。

 シャール教授も「テクノロジーが解決策を生む」として「将来に楽観的」、ギルモア教授もこれに準じた。

 インドのプーリー氏は「インドは今、情報の津波が発生している。非常に厳しい戦いになる」と厳しい見方を崩さなかった。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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