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大塚家具、対立軸は「母娘」か

ひたすら籠城する娘はマクベス、娘に領地を譲って裏切られた父はリア王

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞経済部記者)

拡大インテリアを展示したブースを説明する大塚久美子社長=2018年6月15日、東京都江東区
 実力以上に華美に見せた粉飾は、剥落するのも早かった。父とその忠臣たちがいなくなり、久美子体制が確立した後の2016年12月期決算は売上高が前期比20%も落ち、純損益は45億円の赤字に転落。続く17年12月期はさらに売り上げが落ち込み、赤字幅も72億円に拡大した。2期連続の赤字に陥ったのだ。

 200万円もするソファーや数十万円のテーブル、ベッドなど高級家具を売るには、来店客に付き添い、要望を聞く熟練の営業スタッフが必要だが、久美子氏はこうしたコンサルティング営業を否定し、ニトリの店舗のように客がセルフで買えるような営業手法に改めた。だが、コンビニやスーパーではあるまいし、結婚や新築を機に家具を買いそろえようという来店客が、そんな高額商品を何の説明もなく買い求めるはずがなかった。

 勝久氏の時代もすでにニトリやIKEAの攻勢にさらされ、業績低迷の兆しが見えていたとはいえ、大塚家具はまだ十分に超優良企業だった。2014年12月期決算当時、手持ちの現預金は115億円あり、借金はゼロ。勝久氏が余資運用のために買い集めてきた投資有価証券は71億円あった。それが3年後の17年12月期には現預金が18億円に激減し、投資有価証券が27億円までに細ってしまった。売り上げの急速な減少によって資金繰りに窮し、手持ちの財産をカネに変えて資金繰りに充当していることがうかがえる。

 先行きを不安視して、執行役員財務部長だった杉谷仁司氏が退任したほか、先代からの幹部が相次いで大塚家具を去っていった。中には勝久氏を慕って、勝久氏が新たに創業した家具販売会社「匠大塚」に転職した者もいる。

 まるで久美子氏は先王を斃し、王位を簒奪したものの、たちまち追い込まれていく「マクベス」のようである。

ただひたすら籠城 

 その後の黒字反転も見込めず、大塚家具がこの8月14日に発表した中間決算では、18年12月期も34億円の赤字という3期連続の赤字予想となった。

 実は、この中間決算のとりまとめ中の今年6月ごろ、監査を受け持つ新日本監査法人から「3期赤字だと、我々のルール上、ゴーイング・コンサーン(GC)注記をつけざるをえない」と宣告され、久美子社長とその側近たちが「GC注記」を回避するために慌てて始めたのが「身売り交渉」だった。GC注記とは、監査法人がその企業の事業継続を危惧していることを示す。いわば「破綻予備軍」という烙印である。

 久美子氏とその側近たちは、なんとかGC注記が記載されないよう、赤字決算の発表と同時に、身売り先として新たにスポンサーとなる企業、増資など資本増強策、今後の経営再建策をセットにして発表する予定でいた。新日本監査法人には、こうした施策をもとにV字回復するストーリーを理解してもらい、GC注記を回避してもらおうという算段だった。

 6月以降、中堅百貨店や家電量販店、企業再生ファンドなど数十社に「大塚家具に出資する気はないか」と打診し、その中で浮かび上がったのが主取引銀行の三井住友銀行が強く推すヨドバシカメラによる完全子会社化案と、幹事証券会社のSMBC日興証券が関与する貸し会議室大手のティーケーピー(TKP)による増資引き受け案だった。両社は多額の資金を投じる以上、久美子氏の社長退陣など経営陣の刷新を支援条件にしたが、こうした「娘一人に婿多数」の状況を逆手に取った久美子氏が強気に出て、「自分は辞めない」と言い出したところで交渉は暗礁に乗り上げている。

 いまの久美子氏は、進軍してきたイングランド兵に包囲され、ただひたすら籠城するマクベスさながらである。

姉は広報・経営企画、弟は営業

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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞経済部記者)

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。ジャーナリスト・ノンフィクション作家。88年、朝日新聞社入社。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』、『東芝の悲劇』がある。近著に『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』。取材班の一員でかかわったものに『ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相』などがある。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。レコ漁りと音楽酒場探訪が趣味。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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