老朽化する首都圏インフラ。大地震・超大型台風にいかに備えるか
2018年09月09日
台風21号が大阪を襲った2日後、北海道で震度7の地震が起きた。
日本は天災を宿命とする島国である。もし首都直下型地震や超大型台風が首都圏を襲ったとしたら、停電、高潮、洪水、液状化、交通マヒなど、生活や経済の基盤は大打撃を受ける。多くの人命も失われるだろう。どんな予防策を打つのが賢明なのだろうか。
北海道の地震で衝撃的だったのは、札幌市清田区の液状化の映像だ。道路が深くえぐられ、家々は半ば埋もれながら傾いた。地名から分かるように、昔は水がきれいな田んぼ(湿地)だった場所を埋め立てて住宅地にしたのだ。
東京都は3・11大震災を機に、従来の1.5倍の地質データを使って地下水位や砂層の分布状況を把握し直し、2014年に下のマップを公表した。液状化の可能性が高いのは、荒川東側の江戸川区・葛飾区・足立区や、多摩川河口北側の大田区など。驚いたことに羽田空港のB滑走路南側や国際線ターミナルビル一帯も含まれている。
甚大な被害を受けた関西空港は、水深18mを埋め立てた地盤が軟弱で、地面は開港時からすでに3~4m沈下している。周囲の防護壁を高くして高潮から守っているが、今も年に6cmずつ沈下しているので、イタチごっこだ。
優雅な横長スタイルの空港ビルは、実は地盤沈下がまだらに起きて建物が歪むのを防ぐため、ビル底部の各所に数十個のジャッキを設置し、建物が水平になるようコンピューターが計算して自動的に持ち上げている。地盤や水との戦いでは苦労が絶えない空港なのだ。
羽田空港も地盤は良くない。5.1mの高潮を想定して海面から6.5mの護岸を整備中だが、あまり高くすると航空機の滑走路侵入の障害になるので、限界がある。
海上空港をつくるには、「埋め立て」以外に、鉄の巨大な構造物(メガフロート)を海上に並べる「浮体工法」がある。これなら地盤沈下の恐れはない。
羽田の拡張工事(2010年完成)では、関空の地盤沈下の反省から、浮体工法を押す声が鉄鋼業界を中心に高まった。しかし、「実績がない」との理由で結局、族議員を応援団につけた土木ゼネコン業界が推す埋め立て工法が選ばれた。
海上空港は関空や羽田のほかに中部国際空港、神戸空港、長崎空港、北九州空港などがある。業界や政治家の利害ではなく、安全性や経済性を重視した比較分析が必要だ。
首都圏のインフラは老朽化が進んでいる。とりわけ高速道路、橋、トンネルなどの交通インフラがそうである。高度成長期の1960年代、前回の東京五輪(1964年)に間に合うように集中的に建設された。すでに50数年経っており、地震に対して脆弱になっている。
物流や経済活動を支える首都高速。1962年に京橋―芝浦間が初開通した当時、車はまばらだったが、今は首都高全体で1日100万台以上が走る。トラックの重量は25トンに制限されているのに50~60トンの違反トラックも走る。土台の老朽化、交通量の爆発的増加、しかも過積載で酷使されている。
トンネルも、首都高速ではないが、2012年に山梨県大月市の笹子トンネルで天井板が崩落し、クルマ数台を直撃して9人が死亡した。このトンネルは建設から35年が経過しており、天井板を止めるボルトの緩みや欠落が原因になった。
1995年の阪神・淡路大震災では阪神高速の高架橋が倒壊した。これをきっかけに全国で耐震基準が見直され、首都高速道路(株)は補強作業を毎年続けている。課題は、優先的に対応すべき危険か所をいかに的確に見つけ出すかである。
インフラの維持・管理に関する政府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のディレクターを務める藤野陽三・東京大学名誉教授は、日本が得意とするセンサーの大量活用を提唱する。
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