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米中貿易戦争で得する人、損する人

米中のどちらが傷つくのか。つぶさに分析してみよう

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 今回の措置は、関税が上乗せされるだけで、輸入を禁止するものではない。

 かつて、日本は米、牛肉、乳製品などの農産物について、全く輸入を認めないとか、一定数量しか輸入しないという、輸入禁止または輸入制限措置を採ってきた。今回の措置は、アメリカが中国から輸入する場合、逆に中国がアメリカから輸入する場合、25%の関税が徴収されるというだけのことである。

 輸出国の品質に違いがない場合、価格面での競争になる。それぞれの国が相手国からの輸入品に25%の追加関税をかけた価格が、第三国からの追加関税なしの輸入品価格よりも低いというのであれば(価格上昇による輸入量の減少という効果はあるにしても)引き続き相手国から輸入される。

 数字を挙げて、少し具体的に説明しよう。現状では、アメリカが、おもちゃを中国だけから10ドルで100万個輸入していたとしよう。タイは12ドルなら10万個、ベトナムは13ドルなら40万個、インドネシアは14ドルなら50万個、それぞれアメリカに輸出できる(また価格が上昇しても輸出可能量は変わらない)とする。

 ここで25%の追加関税がかかると、中国からの輸入品の価格は12.5ドルに上昇する。中国産よりも安くなったタイは10万個輸出できるが、ベトナムやインドネシアは依然中国産よりも高いので輸出できない。12.5ドルへの輸入価格上昇で、輸入品に対する総需要量が100万個から90万個へ減少したとすると、アメリカはタイから10万個、中国から80万個輸入する。中国からの輸入は減少するがゼロにはならない。

 ただし、追加関税が50%なら、中国からの輸入品の価格は15ドルに上昇する。アメリカ国内のおもちゃ価格が14ドルに上昇し、輸入品に対する総需要量が70万個に減少するとしたら、タイは10万個、ベトナムは40万個、インドネシアは20万個、輸出することになる。中国の輸出量はゼロとなる。

 このように、追加関税をかけられる国の輸出がどれだけ減少するかは、個々の物品ごとに、追加関税と競合する輸出国の価格の状況、他の輸出国の生産や輸出の状況、追加関税による輸入国の需要量の減少によって左右されるので、一概には言えない。現に、中国がアメリカ産大豆に25%の追加関税をかけた結果、中国はブラジル等からの輸入を増やした。しかし、アメリカからの輸入は大幅に減少したものの、ゼロになったわけではない。

 日本の農産物には、従価税に換算して100%を超える高い関税がかかっている品目が少なくない。しかし、フランスのエシレというバターは200%超の関税を払ってまでも輸入されている(輸入価格100円のバターを消費者は300円超で購入する)。日本の消費者の一部にエシレバターに対する高い評価があるからだ。今回の場合でも、品質面で他国産と差別できる商品、その国でなければ生産できない商品などは、25%の追加関税がかけられたとしても、輸入されるだろう。

「戦争」というほど米中は傷つかない

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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