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米中貿易戦争で得する人、損する人

米中のどちらが傷つくのか。つぶさに分析してみよう

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 現在の貿易の6~7割は部品や中間財の貿易だと言われている。つまり、一国が部品から最終製品までを一貫して作って貿易し合うというかつての経済実態から、今では各国間で部品等が貿易され、ある国で最終製品に組み立てられて、貿易されるというものに変化している。

 かつて日本は加工貿易を行っていると言われた。原料を輸入して製品に仕上げ、輸出していた。これが現在では、原料だけでなく部品まで貿易されて、どこかの国で製品にされているのである。これを世界的なサプライチェーンが実現していると言っている。

 具体的に言うと、例えば、中国は日本、台湾、韓国、タイ、アメリカなどから部品を輸入し、中国産の部品と合わせて最終製品を作って、アメリカに輸出するという構造である。これまでフォードは中国で自動車を組み立て、アメリカに輸出していたが、25%の追加関税がかかるので、組み立てる場所を中国以外の国にすることを検討している。このとき、フォード車の価格が1万ドルだとしても、中国での組み立てによる付加価値が1,000ドルであれば、生産地移動による中国の打撃は1万ドルではなく1,000ドルに過ぎない。

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 上の図で、中国とアメリカをつなぐ貿易ルートが追加関税で悪化した場合に、中国、アメリカや他の国で生産された部品を日本や東南アジアに集めて組み立て、アメリカまたは中国へ輸出することが可能である。もちろん、追加関税を払ってもなお中国(アメリカ)で生産・輸出する方がコスト的に安くすむのであれば、生産地の移動は起きない。中国(アメリカ)の被害はより軽微となる。

 このように、現在では、部品の貿易によって世界のサプライチェーンはより柔軟なものとなっているので、一つのルートに障害が起こったとしても、別のルートで供給されることが可能である。追加関税を課される国の生産も、その国の付加価値分の減少だけに被害は限定されるし、輸入価格が上昇したとしても消費者は別のルートから供給を受けられることになる。このように考えると、”戦争”と名付けるほど、米中が傷つけ合っている訳ではないことが分かる。

 米中の生産者や消費者がある程度の被害を受ける一方で、生産地が移動することとなる第三国は利益を受けることになる。日本のような第三国からすると、多少米中のGDPが減少して、両国への輸出が減少するというマイナスがあったとしても、プラスの生産地移動効果も存在する。

 また、既に日本企業がアメリカや中国の企業と競争関係にある場合、米中の企業の輸出条件が悪くなった分だけ、日本企業は輸出拡大という反射的な利益を受ける。中国がアメリカ産の自動車に対する関税を上げたので、アメリカで作られたBMWやベンツの対中輸出が減少し、日本からのレクサスの対中輸出が増加するという影響が出ている。

農業は例外的に大きな被害を受ける

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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