内部告発や審査部門を無視。過剰な保身体質。これは「銀行」と呼ぶに値しない
2018年09月13日
女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」向け不適切融資に端を発し、存亡の危機に立つスルガ銀行。同社から委任を受けて事実関係を調べてきた第三者委員会(委員長:中村直人弁護士=中村・角田・松本法律事務所)が7日、静岡県沼津市内で記者会見し、調査報告書を公表した。
顧客のためではなく、不動産業者と一体となり、組織的に不正な融資が実行された実態や経緯が明らかにされた。2015年段階で相次いだ内部告発や審査部門の真っ当な指摘は黙殺され、誤った経営判断が繰り返された。
歴史は繰り返す。銀行は不動産バブル期に不動産や株式購入のために巨額の資金を貸し付けていた。北海道拓殖銀行、関西の中堅地方銀行だった平和相互銀行、足利銀行等々。いずれも不動産向け不正融資で経営に影響を及ぼす不良債権を抱え、消えた銀行だ。
「まるで不正のデパートだ」。こう言ったのは2004年に開業し、2010年に破綻した日本振興銀行の元捜査関係者。スルガ銀行でも前代未聞の実質無審査融資が長年続いていた。
なぜ収益率の高い地銀の「優等生」と言われたスルガ銀行がここまで転落したのか。
第三者委の回答は、企業風土の著しい劣化が本質的な原因としている。
しかし、筆者はこれは問題の根本原因ではなく、当時の経営陣と社員を守り責任の所在をあいまいにするための事後的な言い訳に過ぎないと考えている。上司からの「お前の家族皆殺しにしてやる」との発言など、一般人にとってもあまりにもひどい上司のパワハラで部下が従わざるを得なかったという印象操作をすることで巧妙に論点をすり替えているのだ。このようなパワハラは証券業では日常茶飯事で、パワハラとして問題になることはほとんどなかった。
一方で、関係者の法的責任や経営責任の有無については、経営陣ほぼ全員を「個別の不正を具体的に知りまたは知り得た証拠はない」としている。
2016年7月に亡くなった創業家会長の実弟(副社長)については、弁明の機会を与えることができないことなどから判断を留保。社内監査役については問題ある行員リストを入手しながら特段調査をせず、社外監査役への報告もしなかったなどとして監査役としての善管注意義務違反が認められるとしたが、社外取締役や社外監査役については「法的責任は認められない」とした。財務諸表監査やその前提となる内部統制監査の監査人については言及すらない。
特に、元凶である元専務執行役員については、従業員に過ぎず、「ひたすら営業に邁進した立場で、今回の構図を作った張本人ではないし、その責任があるというのは酷である(それは経営トップの責任である)」。過剰ともいえるほど鉄壁に守っているのだ。
青山学院大の八田進二名誉教授は、第三者委の報告書について「これほどに全社的に行われていた巨額の不正取引に対して、知り得た証拠がないとか、知り得る機会がなかったなどとして、社外役員に対する責任に切り込んでいない点には違和感を覚える」と指摘。自身も日本航空や日本政策投資銀行の社外監査役を務める立場から、「社外役員は不正などに係る社内情報を適時、適切に吸い上げるために施策を講じることこそが存在意義だ。スルガのような事例がまかり通るなら、制度は空洞化してしまう」という。
「社内の誰も声をあげなかったわけではない」。こう弁明するのは元スルガ銀行の関係者だ。2015年2月には不動産管理会社によるサブリース(家賃保証)を利用したシェアハウス取引の問題について内部告発が寄せられていたにもかかわらず、同行は結果的には見て見ぬふりをした。これが全ての始まりだったという。筆者は内部通報制度が適切に機能しなかったことこそが、これほどまでの底なしの不正を許すことにつながったと考えている。
通報があった場合、社内で誰が責任をもって対応義務を負うのかが決定的に重要だ。社内外の窓口があるのが前提だが、誰でもいいわけではない。責任者が不正を止める権限を実際行使できる立場にあるのか、一方で通報者が不利益な処分を受けないための人事権が行使できるかが明確になっている必要がある。規定上形式的にこうなっている企業も多いが、実質的にそのような体制になっているかは別問題だ。
スルガ銀行の場合、最初の内部告発を受け、2016年7月に亡くなった創業家会長の実弟(副社長)は口頭でスマートデイズ社(2018年5月15日破産)との取引停止を指示していたという。故人がリスクを重視し本気で取引停止を指示していたのか、「スマート社が表に出ない形でうまくやれ」という趣旨だったのかは今となっては定かではない。しかし、同社は後者と解釈して、ダミーの迂回法人を設立するなどして取引は実質的に継続、急拡大していった。
しかも内部告発は4月、5月にも「ダミー法人を使った不正取引」だと繰り返されたにもかかわらず、その都度もみ消された。販売会社を売り主としてスマート社が表に出ないで、実質的にスマート社が家賃を保証するシェアハウスを提供するスキームが完成してしまったのだ。
調査結果によると、「こうした内部告発などの重要な情報が経営会議や執行会議には報告されていない」という。仮にそれが真実だとしても、内部通報制度はあったものの、不十分どころか全く機能していなかったといえる。
関係者によると、審査部の一部は当初から不動産管理会社の家賃保証を活用したシェアハウスビジネスの合理性を疑っていた。
2015年には物件調査の結果、担保評価額が周辺土地・建物の実勢価格より割高で、家賃保証の原資の賃料について実際の入居状況が芳しくないケース(入居率50%以下が約半数)が担当者レベルでは明らかになり、家賃保証の危険性や虚偽申請のリスクが指摘されたという。家賃保証は空室リスクが大きく、融資審査のために作られた事業計画書と異なり、現実は大きく違っていたのだ。
2016年には延滞などを管理する融資管理部が横浜東口支店で所属長が変わった後にシェアハウス融資の実行額が急増していた。当然異常値として検知。5月には同ビジネスのリスクが明確に分析され、サブリース会社が自転車操業に陥る不正リスクまで指摘されたが、営業側の意向で取り扱い地域や業者を限定して継続する方針が決まった。
一部の審査担当者は審査部限りでの記録として審査意見を残していた。第三者委の調査結果によると、審査意見の件数は200件を超える。その内容は「家賃設定に疑義あり」などが目立つが、最終的には営業部門に押し切られ、融資は実行されてしまった。
融資は2015年の取り扱い開始以降、2017年上半期までの承認率は99%審査で、ほぼなかったに等しい(申し込みがあればほぼ審査は通過)。第三者委は内部監査について事前に作成した監査計画、監査方針、チェックリストに基づいた社内規定の整備状況などの形式的、外形的な確認に終始していた。「実効的な業務監査が行われず、多数の不正行為や機能不全の兆候が見過ごされた」と結論付けた。
不動産業界では資料の改ざんは古くからおこなわれており、特段驚くべきではない。しかし、スルガ銀行の場合は、
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