スルガ銀行は「銀行」だったのか(上)
内部告発や審査部門を無視。過剰な保身体質。これは「銀行」と呼ぶに値しない
深沢道広 経済・金融ジャーナリスト
第三者委の回答は、企業風土の著しい劣化が本質的な原因としている。
しかし、筆者はこれは問題の根本原因ではなく、当時の経営陣と社員を守り責任の所在をあいまいにするための事後的な言い訳に過ぎないと考えている。上司からの「お前の家族皆殺しにしてやる」との発言など、一般人にとってもあまりにもひどい上司のパワハラで部下が従わざるを得なかったという印象操作をすることで巧妙に論点をすり替えているのだ。このようなパワハラは証券業では日常茶飯事で、パワハラとして問題になることはほとんどなかった。
一方で、関係者の法的責任や経営責任の有無については、経営陣ほぼ全員を「個別の不正を具体的に知りまたは知り得た証拠はない」としている。
2016年7月に亡くなった創業家会長の実弟(副社長)については、弁明の機会を与えることができないことなどから判断を留保。社内監査役については問題ある行員リストを入手しながら特段調査をせず、社外監査役への報告もしなかったなどとして監査役としての善管注意義務違反が認められるとしたが、社外取締役や社外監査役については「法的責任は認められない」とした。財務諸表監査やその前提となる内部統制監査の監査人については言及すらない。
特に、元凶である元専務執行役員については、従業員に過ぎず、「ひたすら営業に邁進した立場で、今回の構図を作った張本人ではないし、その責任があるというのは酷である(それは経営トップの責任である)」。過剰ともいえるほど鉄壁に守っているのだ。
青山学院大の八田進二名誉教授は、第三者委の報告書について「これほどに全社的に行われていた巨額の不正取引に対して、知り得た証拠がないとか、知り得る機会がなかったなどとして、社外役員に対する責任に切り込んでいない点には違和感を覚える」と指摘。自身も日本航空や日本政策投資銀行の社外監査役を務める立場から、「社外役員は不正などに係る社内情報を適時、適切に吸い上げるために施策を講じることこそが存在意義だ。スルガのような事例がまかり通るなら、制度は空洞化してしまう」という。
相次ぐ「内部告発」を黙殺
「社内の誰も声をあげなかったわけではない」。こう弁明するのは元スルガ銀行の関係者だ。2015年2月には不動産管理会社によるサブリース(家賃保証)を利用したシェアハウス取引の問題について内部告発が寄せられていたにもかかわらず、同行は結果的には見て見ぬふりをした。これが全ての始まりだったという。筆者は内部通報制度が適切に機能しなかったことこそが、これほどまでの底なしの不正を許すことにつながったと考えている。
通報があった場合、社内で誰が責任をもって対応義務を負うのかが決定的に重要だ。社内外の窓口があるのが前提だが、誰でもいいわけではない。責任者が不正を止める権限を実際行使できる立場にあるのか、一方で通報者が不利益な処分を受けないための人事権が行使できるかが明確になっている必要がある。規定上形式的にこうなっている企業も多いが、実質的にそのような体制になっているかは別問題だ。
スルガ銀行の場合、最初の内部告発を受け、2016年7月に亡くなった創業家会長の実弟(副社長)は口頭でスマートデイズ社(2018年5月15日破産)との取引停止を指示していたという。故人がリスクを重視し本気で取引停止を指示していたのか、「スマート社が表に出ない形でうまくやれ」という趣旨だったのかは今となっては定かではない。しかし、同社は後者と解釈して、ダミーの迂回法人を設立するなどして取引は実質的に継続、急拡大していった。
しかも内部告発は4月、5月にも「ダミー法人を使った不正取引」だと繰り返されたにもかかわらず、その都度もみ消された。販売会社を売り主としてスマート社が表に出ないで、実質的にスマート社が家賃を保証するシェアハウスを提供するスキームが完成してしまったのだ。
調査結果によると、「こうした内部告発などの重要な情報が経営会議や執行会議には報告されていない」という。仮にそれが真実だとしても、内部通報制度はあったものの、不十分どころか全く機能していなかったといえる。
審査部は蚊帳の外