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スルガ銀行は「銀行」だったのか(下)

人様のお金を預かる意識が希薄。実態は不動産商品を売る証券業務そのものだった

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

スルガ銀行本店=静岡県沼津市

将来を左右する行政処分

 スルガ銀行の不正融資を調べた第三者委員会の調査報告書と、金融庁が今春から始めた緊急検査で明らかになった事実には、決定的に違う点がある。第三者委は従業員にすぎない営業担当の元専務執行役員に責任を負わせるのは酷であるとして、経営トップに責任があると言及するにとどまっている。これに対し、金融庁はこの元専務執行役員を被害拡大の元凶としている。金融庁内部でも様々な意見があるという。

 スルガ銀行が将来再生するか、しないかは金融庁が月内に発令する行政処分の内容にかかっている。第三者委が認定した通り、シェアハウス融資をめぐる審査過程で法令違反が認められ、支店、銀行全体で内部管理体制に重大な問題がある。経営責任を問われるのは避けられない情勢だ。

 金融庁は横浜東口支店など一部支店の業務停止処分など厳正な行政処分を検討している。法人として責任を問うのはもちろんのこと、経営者個人の責任を求めるかが焦点だ。事態を悪質性が高いと見るならば、銀行法違反(検査忌避)などで刑事告発に踏み込む方針だ。

問題はシェアハウスだけではない

 スルガ銀行をめぐる問題はシェアハウス融資だけでは済まなくなっている。

 関係者によると、問題のシェアハウス融資で検査に入った後、同社をめぐるさまざまな問題を把握したという。創業者関連企業への数百億円規模の不適切な融資もその1つで、融資目的が不透明なものや実質的に債務超過の企業も含まれており、一部回収不能となっているもようだ。いわば創業家が銀行を私物化し、金融庁の立場に立てば不適切な会計処理も明らかになりつつある。

 金融庁が前回の検査した際には、創業家関連企業への融資は1000億円を超えていたが、当時の金融庁が取引の適正化を求めたこともあり、残高は大幅に減少していた。しかし、2018年3月末時点でもなお数百億円規模の残高があった点を問題視している。スルガ銀行は問題の関連企業について「子会社ではない」と主張しているものの、金融庁は「実態としては子会社になり得る」と平行線だ。

 さらに、一棟建てアパートなどシェアハウス以外の収益不動産融資の残高は約1兆3000億円ある。これに対する貸倒引当金は現時点でわずか162億円でしかない。シェハウス融資でこれだけずさんな融資をしていた銀行の審査や物件調査を信用しろというのは無理がある。会計専門家は「第三者委の調査結果を踏まえ、影響額は変わり得る。現状は過少引き当ての可能性がある」と指摘する。

個人不正か、組織犯罪か

 金融庁が第三者委の内容をそのまま追認し、無難な行政処分を出することも考えられる。

 ただ、安易に場当たり的な行政処分を下すと、数か月後に類似した事例で判断を再び求められる。アパート経営を主力とする上場企業TATERUが西京銀行の融資で、債務者の預金残高データを改ざんした事案が発覚したためだ。TATERUは事態を重く見て「特別調査委員会を立ち上げ、調査結果を公表する」としている。

 金融庁はなぜスルガ問題のような事案が生じたか根本的な原因を分析し、それを再発防止するために何が最善か考えたうえで、行政処分や刑事告発を慎重に検討する必要がある。第三者委や金融庁自身の検査で、スルガ銀行の組織的な不正行為が明るみに出たことで、不正に関与した個人の問題とするのか、それとも過去の不正行為への制裁はもとより、今後の再生を前提とした再発防止に向けた組織として欠陥への対応を重視するのか。換言すれば、一部の問題行員の個人不正と矮小化するのか、組織犯罪として刑事事件まで発展させ社会的制裁を加えるのかという覚悟が求められる。

 金融庁は近年、森信親前長官の主導で、金融検査マニュアルを廃止し、不良債権処理から対話を重視した金融行政へ転換してきた。そのなかで、麻生太郎金融相や遠藤俊英新長官が今回の事案をどれほど深刻にとらえるかによるだろう。

銀行業の免許取り消しを

 金融庁がどのような決断をするにせよ、過去に実行されたシェアハウス融資には影響を及ぼさない。スルガ銀行は昨年末で新規の関連融資を既に打ち切っており、融資が将来これ以上実行されるのに歯止めをかけることができるだけだ。

 スルガ銀行は既にシェアハウス融資の債務者に金利引き下げなどの契約条件の変更を申し出て、当事者間で合意に至っているケースも多い。仮に当事者間で協議し、合意が成立しなければ、舞台は民事の法廷闘争になる。

 筆者はこれだけ社会的に影響力を与え、銀行業として決してあってはならない背信行為をしたのだから、刑事告発が必要で、最も重い免許取り消し処分に値すると考えている。銀行業を名乗るべきではなく、自主廃業を求めたい。詐欺や横領などの個人不正はいかなる組織でも起きうるが、組織的な不正や不祥事を許すのは銀行では致命的だからだ。

 金融庁が銀行業の免許を取り消した事例は、2004年9月のシティバンク、エヌ・エイ在日支店だ。その理由は、不正融資、不公正取引、説明義務違反、本人確認手続き等の不備だった。

 もちろん、金融庁としては自ら認可を取り消ししたくないのが本音だ。いったん、銀行業の免許を交付しこれまで業務を許してきた以上、監督官庁としての認可・監督責任が問われるためだ。

 そのため、旧北海道拓殖銀行や旧日本長期信用銀行でも自主廃業を選ばせている。拓銀の預金残高は1994年に8兆7000億円あったが、1997年には6兆円を割り込んだ。顧客が拓銀を見限り、預金が解約・流出したのだ。地域を超えて東京などに進出し、企業への乱脈融資で債務超過に陥り、一時国有化された足利銀行の例もある。

 直近では2004年に開業した日本振興銀行がいい例だ。同行は中小企業向け融資に特化した新しいタイプの銀行だった。しかし、不正融資などに手を染め、検査妨害などもあり、預金が解約・流出。最終的に決算で債務超過となることが明らかになり万事休す。最終的に金融庁は同社の刑事告発に踏み切った。当時は民主党政権下で亀井静香金融相がゴーサインを出した。

 日本では銀行が1つ破綻しても金融システム全体に与える影響は軽微にとどまるのは歴史的に証明されている。日本には銀行や信用金庫が過剰供給されているためだ。静岡県は静岡銀行を筆頭に、信用金庫などの金融機関が複数営業する激戦エリアだ。仮にスルガ銀行がなくなっても、西に静岡銀行、東に横浜銀行があり、問題は生じない。

不動産業出身「えせ銀行員」が融資を助長した可能性

 筆者が厳しい対応を求める理由はこうだ。

 スルガ銀行はシェアハウス融資に傾倒する前は、ワンルーム投資用マンション融資についてデート商法で契約を締結するのに利用されていた(訴訟が起こされている)。ワンルーム融資の後釜として考えられたのが、中古の一棟アパートやシェアハウス新築の融資案件だった。

 さらに、シェアハウス融資が2017年に限界に達したとみるや、民泊規制の緩和を見込み、10月には旅館業法に基づく簡易宿所(ゲストハウス)建築融資ビジネスを始めようとしていた。

 ただ、自主規制で5年以上の不動産業者で上限を100億円とするなど従来の不動産融資ビジネスの規模を大幅に縮小せざるをえない形だった。つまり、不動産融資でこれまでこれだけ失敗したにもかかわらず、全く懲りていないのだ。第三者委の調査によると、2007年以降、中途採用を本格化したという。この不動産業出身の「えせ銀行員」が融資を助長した可能性がある。

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