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「企業統治が機能していなかった銀行界」

リーマン・ショックから10年 英でインタビュー 2

小林恭子 在英ジャーナリスト

絶対視された格付け会社の判定

拡大英フィナンシャル・タイムズ紙のオフィス外観(筆者撮影)
―― 銀行の規制・監督と言えば、バーゼル銀行監督委員会(G10の中央銀行総裁会議で設立された銀行監督当局の委員会)がある。委員会は、国際的に活動をする銀行の自己資本比率や流動性比率などに関する統一基準「バーゼル合意」を定めている。

 バーゼル合意によれば、規制当局は銀行に対し実質的にこう言っている。「自分たちでリスク管理の体制を作りなさい。私たちはあなたたちに頼っていますよ」、と。

 私は、バーゼル合意は基本的に欠点があると思っている。リスク査定の基準が適切ではないことがしばしばある。例えば、政府の債務にはリスクがないとされている。果たして、そうだろうか。

 金融危機発生の最後の要因として、格付け会社の役割を挙げたい。

 例えば、金融派生商品の中には非常にリスクが高いものがあるが、格付け会社は過度に高い評価を与えた。サブプライム・ローンについて、最高ランクである「トリプルA」の評価を下した場合もあった。

 格付け会社と銀行には利害関係があった。格付け会社は金融派生商品を扱う投資銀行から報酬をもらう。銀行は格付け会社に報酬を払うことによって、より良い格付けをしてもらうことを望んだ。

――格付け会社の判断が広く信用された?

 金科玉条と見なされて、信用された。

――金融危機発生の直接のきっかけは、低所得者層を対象に提供されたサブプライム・ローンの焦げ付きだった。サブプライム・ローンの販売を支えたのが、住宅価格の上昇だ。改めて、なぜ住宅価格は上がり続けたのかを聞きたい。

 金融緩和政策が原因だ。これによって市場に大量のお金が流通した。銀行にとって余剰資金を処理するために最も簡単な方法は、不動産に貸し出すことだ。ビジネス用の不動産でも個人の不動産でもいい。例えば建設業に投資するよりもはるかに楽だ。建設業への投資の場合にはかなりの事前調査が必要になるが、不動産の場合は査定者に見てもらい、その査定に応じて不動産価格の3分の2あるいは90%を貸せばいい。

 こうして不動産への貸し付けが増えたが、市場に過剰のお金が出回り、不動産価格が上昇していくとバブルにつながるので危険でもあった。米国で住宅市場がバブルになりつつあるという話が出ていたが、まさか米国内ですべての住宅価格が落ちることはないだろうと思っていたところ、そうなってしまった。バブルは破裂してしまった。

――バブルの破裂はいつごろか。

 米国では2007年だ。銀行がサブプライム・ローンの貸し付けによって損失を計上し出したのが、2007年の年頭だ。この年の6月、米投資銀行ベア・スターンズが窮地に陥った。理由は不動産ローン関係の金融派生商品の焦げ付きだ。

 この時分、銀行は互いを信用できなくなった。ほかの銀行がどれほどサブプライム・ローンを扱っているかが分からないからだ。サブプライム・ローン市場は透明性がほとんどなく、不動産関連のローンは非常に複雑だった。互いへの貸し付けを停止してしまい、市場が動かなくなってしまった。

 2007年7月から、大規模な信用縮小(クレディット・クランチ)となった。翌年もそのような状態が続き、9月のリーマン・ブラザーズの破綻で、この世も終わりのような状況となった。

――英国の金融規制当局は、「ライトタッチ」つまり、緩い規制を行っていたといわれている。当時の政府もロンドンに国際企業を呼び寄せるため、あえてこの姿勢を支援していたのだ、と。

 金融危機が発生した理由として、規制が不十分だったという点は当たっている。

 英国で言えば、確かに、政府や金融当局がロンドンを国際的な金融センターとして振興することで、人を惹きつけ、金融界からの税収入を増やせると考えた。

 また、危機が発生した時、英中央銀行(イングランド銀行、BOE)は行動を起こすのが早くなかった。金融体制を安定化するために素早く行動を起こす必要があったのだが。それは、当時のキングBOE総裁が中央銀行の役割は通貨政策を実行し、インフレ目標を達成することだと考えていたからだ。中央銀行の伝統的な役割である、金融体制の安定化についてほとんど関心を持っていなかった。

――キング総裁は、なぜもっと早く行動を起こさなかったのかと聞かれて、「モラルハザードを起こしたくなかったから」と答えている(注:モラル・ハザードとは、「倫理の崩壊」などと訳され、中央銀行が安易に支援を提供することで金融機関側の規律が失われることを指す)。

 総裁はモラルハザードを発生させてはいけないという考えに取りつかれていた。モラルハザードが起きないようにと考えるべき時は、中央銀行が動かなくても市場が大丈夫な時だ。金融危機の渦中に考えるべきことではない。金融不安を増大させてしまう。

危機を早期に察知できた理由

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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