メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

日米首脳の通商協議を緊急報告する

民間の活動を政府が約束させられた80~90年代の日米摩擦の二の舞にならないか

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大トランプ米大統領と話す安倍晋三首相=2018年9月23日、ニューヨーク(内閣広報室提供)

突然浮上した「TAG」なる言葉

 たまたま別件で訪米し、日米通商協議の報道に接した。米国からこの協議の評価を総括してみたい。

 まず、「物品貿易協定、略称TAG(Trade Agreement on goods)」なるものが突然出てきて面食らった方も多いだろう。

 日本政府はこれまで、農産物でTPP以上の対応・譲歩はできないと内外に主張していた。このため、二国間交渉となってトランプ政権からTPP交渉のとき以上の圧力がかかり、TPP以上の関税削減・撤廃を要求されるおそれがある日米FTAはやらないと言っていた。

 今回の合意では「日米TAG」をするというのである。つまり、日米FTAはやらないが日米TAGはやるというわけだ。しかし、どちらも二国間交渉であることには変わりない。

 日米首脳間の共同声明文では、農産物についてはTPP以上の約束はしないというので、日米FTAだろうが日米TAGだろうが、中身は同じことである。ある意味、これは農業界を安心させるための目くらましにすぎない。役人の姑息な対応だが、この悪知恵をひねり出した人は、役人としては立派なのかもしれない。

 正確に言うと、WTOができるまで世界の貿易はGATTで規律されてきた。GATTはモノについての協定なので、GATT上のFTA=自由貿易協定は、サービスや投資等は含まないモノの自由貿易協定、つまり今回突然浮上した「物品貿易協定=TAG」にほかならない。いま世界各国が行っている自由貿易協定といわれるものは、それにその後の貿易や経済事情の変化で必要となったサービスや投資をくっつけただけのものである。

 現在世界のだれも使っていない「物品貿易協定=TAG」なる言葉を見つけ出した日本の役人の努力を、安倍首相以下は評価しているのだろう。

 結局、WTO上の根拠を欠く安全保障を理由とした自動車の関税引き上げというアメリカの脅しに負けて、農産物についても自由貿易協定を締結することで、アメリカにTPP並みの譲歩を認めてしまった。牛肉と自動車のバーターになってしまったのである。

 毅然とした対応を取っていれば、TPPによって農産物で豪州等より不利な扱いを受けることとなったアメリカが、お願いですから農産物の関税を下げてくださいと言う交渉になるはずだった。残念である。

中国に遠くから吠えているだけ

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

山下一仁の記事

もっと見る