メルカリはインド人を大量採用。日立はフィリピン人技能実習生を大量解雇
2018年10月14日
フリマアプリのメルカリに10月1日、北はカナダから南はインドまで44人の外国人が入社した。「日本語ができなくても優秀ならば」と創業者でもある山田進太郎会長兼最高経営責任者(CEO)は言う。通訳・翻訳から住宅の世話、さまざまな相談ごとに乗る手厚い支援部門も用意されている。
安倍政権は外国人労働者の受け入れ拡大の旗を振り、いまや日本で働く外国人は過去最高の約128万人。だが、その「能力」に期待して外国人を採用するメルカリのような事例はまだ少ない。むしろ、安価な賃金で酷使するような事例が後を絶たない。
朝日新聞の報道によって、経団連会長企業である日立製作所で「技能実習生制度」を利用した問題が浮かび上がった。メルカリと日立の間には、外国人と「ひと」として付き合うのか、それとも「労働力」と見るのか、雇用における思想の違いが横たわっている。
メルカリが10月1日、東京・六本木ヒルズの本社で開いた新入社員向け説明会は、海外進出に積極的な同社らしいコスモポリタンな雰囲気だった。
中途社員を含めて約100人が入社。このうち、インド(32人)を始め、台湾、米国、中国、英国、ベルギー、カナダ、フランス、シンガポールから合計44人の外国人が新卒で入社した。説明会は取材に訪れたマスコミに公開された。
囲み取材に応じたサヒル・リシさん(22)は「日本語は話せないが心配ない。(メルカリ社内に)メンターがいるから大丈夫」と語った。インド工科大カラグプル校でコンピューターサイエンスを専攻した彼は、メルカリが2017年にインドで開催したハッカソンで優勝し、すでにメルカリで機械学習分野のインターンとして働いてきた。
メルカリは2013年の創業以来、外国人の採用に熱心に取り組んできた。
「いずれ世界中にスマホが行き渡る。そのときに世界中の誰もが不要品を売買できる場を持てれば、いまよりももっとモノを捨てないようになり、それによって資源を大切にすることができると思ったんです。だから何十年かけてでも全世界でやっていきたい。最終的にはすべての国につくるぞ、と」
山田氏はそんな理念を語る。すでに日本で働く750人の1割強の80人余が外国人。これに今回の新卒などが加わって、現在は29カ国から約130人の外国人が働いている。
特筆すべきなのは、外国人採用にかける情熱と、採用後のきめ細かい面倒見の良さである。
メルカリは、IT大国でもあるインドの若い才能を発掘しようと昨年12月、インド工科大の新卒採用選考会に初めて参加した。同大はコンピューターサイエンスの分野では名門大として知られ、グーグルやフェイスブックなど米国のITジャイアンツが優秀な学生を大量採用している。
同大で12月1日~10日に行われた選考会は、過去の採用実績や知名度、給与など待遇面を勘案して、同大就職課が企業の採用面接の順番を決める。初日の12月1日の午前中なら優秀な学生を採用しやすいが、後の日取りになればなるほど、上位企業の選考から漏れた学生ばかりになっていくわけだ。
当然、インドで知名度のないメルカリには不利に働く。だからこそ選考会前の昨年10月、インドの地でメルカリ主催のハッカソンを開催し、優秀者には日本に招待するなど手厚いプロモーションを展開した。
「とにかく日本にきてもらって、メルカリを見てもらおうと。それで帰国したらインド工科大に広めてもらうブランディングをやったんです」と石黒卓弥HRグループマネージャーは言う。
そんな努力が奏功したのか、同大の新卒29人を採用することができた。報酬は「1000万円までは出していない。非公開です。各自バラバラで」(石黒氏)というが、日本人社員と同じ評価基準というから同社の平均報酬の500万円以上はあるのだろう。
そのうえで彼らが日本に幻滅して帰国したりしないよう手厚い支援制度を設けている。
まず人事部門(これをメルカリでは「ピープル・パートナー」と呼ぶ)が採用内定後、現地のインドで2カ月間、日本語学校に通わせる。「それだけで『短い文章は大丈夫です』なんて、いきなり日本語で言われましたからね、よほど頭がいいんですかね」(石黒氏)。
次いでグローバル・オペレーション・チームが通訳や文書の翻訳、さらに勤務時間外の日本語教育支援を受け持つ。ダイバーシティ&インクルージョン・チームが、カルチャーショックなど文化や理念の衝突・摩擦の緩和や解消に努める。
「なかなか日本では家を借りるのも一苦労ですから、その支援も。ゴミの出し方や地震のときの対応、NHKや新聞勧誘への対処法など、日本生活のイロハを文書にして配っています」と石黒氏。その上で外国人に対して、「バディ」と呼ばれるメンター(相談相手)を設けている。1人のバディが受け持つ外国人は最大で8人という。やることがきめ細かいのだ。
低賃金で外国人をこき使うというのが、日本の大企業に定着しているが、石黒氏は「そういう感覚は一切無い。『労働力』とは考えていないんです。『ピープル』と呼び、人事部門は『ピープル・パートナー』という名称です。人として尊重しているんです」と言う。「だから、フェイスブックに行くか、メルカリに行くか悩んでいるんだと学生に言われると、むちゃくちゃワクワクします」
メルカリは9月に中国人学生を招いたハッカソンを日本で開いたほか、10月20~21日には今度はロシア・東欧に焦点をあて、ポーランドのワルシャワでハッカソンを開催する。
メルカリの新入社員向け説明会から4日後の10月5日、日本弁護士連合会は、外国人技能実習制度を直ちに廃止し、人権を保障した外国人労働者の受け入れ制度を設けるよう求めた宣言文を採択した。政府は労働力不足を補うため外国人労働者の受け入れを拡大しようとしているが、その足元で「事前に聞いていた話と違う」とトラブルが頻発するのが外国人技能実習制度である。
「3K」職場の人手不足を補うため、あるいは日本人正社員の高い人件費を嫌って、「技能実習生」という建前で海外から安価な労働力を呼び集めてきたのが、この制度。「建前」と「本音」、あるいは「実情・実態」が乖離しすぎており、制度にそもそも「ウソ」がまじっていることを、少なくない日本人が知っている。
日立製作所の笠戸事業所(山口県下松市)では、多くのフィリピン人技能実習生が、事前に聞いていた「配電盤や制御盤など電機機器を組み立てる技術の習得」ではなく、英国向けの高速鉄道や日本の新幹線の車両に窓やトイレを取り付ける作業に従事させられていたことに腹を立てた。日立は、海外へのインフラ輸出の成功例として鉄道部門に力を入れてきたが、その製造現場で働いていたのは、こうした外国人実習生だったわけだ。
法務省と外国人技能実習機構が合同で笠戸事業所を実地検査したところ、適正な実習計画を認定できないと判断した模様で、彼らの在留資格を技能実習から30日間の短期滞在に変更した。これによって技能実習生の在留資格が更新されなくなり、日立は10日までに40人を解雇することになった。
日立の広報担当者はさらに解雇者が増え、年内に累計99人になる見通しを明らかにしたうえで、「我々には調査結果が明らかにされていないので、なぜワーキングビザが短期滞在ビザになったのかわからない」と説明している。
解雇されたフィリピン人技能実習生が救済を求めて加入した労働組合「スクラムユニオン・ひろしま」の土屋信三委員長は、「フィリピン人の技能実習生には大卒など高学歴の人もいます。高学歴のメンバーは『日立という大企業で働いて技術を習得するつもりで来たのに裏切られた』と言っています」と説明する。
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