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タックス・ギャップへ真剣に対応する欧の先進諸国

シェアリングエコノミーの発達で予想されるギャップの拡大

森信茂樹 東京財団政策研究所研究主幹

拡大ウーバーのスマートフォンアプリを使った名古屋でのタクシー配車サービスで、使用される車両=名古屋市中区
 今回、エストニア、フランス、イギリスの財務省・国税庁を訪問し、シェアリングエコノミー・ギグエコノミー(ネットを通じて単発で仕事を契約する者で成り立つ経済)に各国でどのような対応をしているのか、いわゆるタックス・ギャップ(Tax Gap、無申告・過少申告による税収減)をどのように防止しようとしているのかなどを調査した。

 タックス・ギャップは、本来申告すべき少額の所得を、税務当局には把握されていないだろうと考えて申告しないというような場合に大きくなっていく。シェアリングエコノミーの発達で、エアビーアンドビーのホスト(貸手)やウーバーの運転手など、少額の所得を得る機会が飛躍的に拡大すると、タックス・ギャップは拡大していくと予想される。

先進国では税務当局が自国のタックス・ギャップを推計

 彼らの所得を、無申告・過少申告のままで放置すると、正直に申告する納税者のモラルが低下したり、地下経済の温床になる。そこで、先進諸国は、税務当局が自国のタックス・ギャップを推計し、その対策に当たっている。

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 写真は、スウェーデン国税庁が作成しているTax Gap Mapのパンフレットの表紙である。中にはタックス・ギャップが税収の10%、GDPの5%程度存在すると推計されている。残念ながら、わが国ではそのような推計はしていない。

 シェアリングエコノミーのもとでは、少額の所得の無申告といったこと以外でも租税回避が生じうる。私がよく話す小話がある。(月刊「資本市場」10月号参照)

 スウェーデンの所得税の最高税率が80%時代の話である。弁護士が虫歯の治療ということで歯医者に行った。治療が終わったので、代金を支払うというと、100万円だという。弁護士は、「ちょっと待ってくれ、そんなに高いのか、自分の所得税率(限界税率)は80%なので、100万円を払うためには、500万円追加的に稼がないといけない」と文句を言った。これに対して医者は、「私の税率も80%なので、あなたから100万円いただいても、手元に残るのは20万円です」と答えた。

 「20万円のために500万円も稼がなくてはいけないのか」と双方はため息をつき、それならいい方法があるということになった。それは、弁護士の持っている別荘を1カ月無料で使うということであった。双方とも税金の支払いに悩まされることがなくなり、めでたし、めでたし、ということであった。


筆者

森信茂樹

森信茂樹(もりのぶ・しげき) 東京財団政策研究所研究主幹

1950年生まれ、法学博士(租税法)。京都大学法学部を卒業後、大蔵省入省。1998年主税局総務課長、1999年大阪大学法学研究科教授、2003年東京税関長、2004年プリンストン大学で教鞭をとり、2005年財務総合政策研究所長、2006年財務省退官。この間東京大学法学政治学研究科客員教授、コロンビアロースクール客員研究員。06年から18年まで中央大学法科大学院教授、(一社)ジャパン・タックス・インスティチュート(japantax.jp)所長。10年から12年まで政府税制調査会特別委員。日本ペンクラブ会員。著書に、『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版)『税で日本はよみがえる』(日本経済新聞出版)、『未来を拓くマイナンバー』(中央経済社)『消費税、常識のウソ』(朝日新書)『日本の税制 何が問題か』(岩波書店)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除』(共著、中央経済社)『どうなる?どうする!共通番号』(共著、日本経済新聞出版社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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