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一事が万事?

拡大シンガポールとマレーシアを海上経由で行き来する際の旅券審査艇。こちら側の船が連絡すると港の停泊地から飛んでくる。出入りが多いと連絡から1時間以上待たされることも=2017年10月20日、筆者撮影
 タイ・マレーシア国境を例に挙げたが、東南アジアの国境は一事が万事、この状況である。周囲を海に囲まれた小国シンガポールでさえ、十分とは言い難い。冒頭に上げたKLのカンファレンスでは、「シンガポールは歴史的にも中継貿易で生きてきたから、国連薬物犯罪事務所の(犯罪抑止)イニシアチブに消極的だ」と名指しで批判する声があった。海峡沖に停泊する船同士の積荷詐欺は横行、国が密輸ハブとして利用されているとの声は根強い。インドネシアが手を焼いている錫の密輸出は、かなりの割合で荷主がシンガポール人とされ、インドネシア海軍が密輸船をしょっちゅう追いかけている。カンボジアから違法採掘された川砂は、シンガポールの埋め立てにこっそり利用されているとの指摘もある。また、大量破壊兵器(WMD)の密輸で、シンガポールが商流・物量両面で中継地になっている事例も、過去多く確認されてきた。シンガポールの港を出て、海上で国境を越える際の旅券審査など、拍子抜けするほど緩い。

 シンガポールの国境管理は実は極めて優秀で、特に空港のそれは日本の比ではないとは、専門家から良く聞く。そのシンガポールでさえこうした課題を有している。他の域内各国の状況は「推して知るべし」となる。

拡大シンガポールのウェットマーケット(路上市場)に並ぶ玉ねぎ=2016年9月2日、筆者撮影
 生活実態から密輸を体感できるのは、インドネシアで見られる玉ねぎのケースだ。イスラム教断食月(ラマダン)の毎年6月に向けて、3月ごろから値が上がり、ラマダンに入ると一気に相場が冷える。国内産業保護を理由に政府が輸入制限を課しているためだが、結局密輸で稼ぐ業者がのさばる結果になっているという。ジャカルタなどの大消費地に向かうのに、送付元にかかわらず一旦マレー半島西岸に集積された玉ねぎは、お隣のスマトラ島北部のアチェなどに降ろされ、ここから陸路でインドネシア都市部に流通させるケースが多いようだ。今年も、タイから密輸されアチェで発覚した赤玉ねぎやココナツ、ボルネオ島内をマレーシア領からインドネシア領に移送される赤玉ねぎの摘発事案など、多くが報道された。他にも、フィリピンからインドネシアに入るルートを示唆する情報もある。セレベス、スールー海は海洋民族国家の主な活動範囲で、国境管理はほとんどザルらしい。

 もちろん、このルートに乗るのは野菜ばかりではない。同じ南下ルートで違法薬物もインドネシアに入ってくるし、ウイグルからのテロリストもこのルート経由で離島の軍事キャンプ地へ向かう。逆に北上ルートでは若いインドネシア女性が売春婦としてマレーシアから北へ送られていく。

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筆者

佐藤剛己

佐藤剛己(さとう・つよき) ハミングバード・アドバイザリーズ(Hummingbird Advisories)CEO

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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