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トランプは中間選挙で敗れても変わらない

次の大統領選まであと2年、米国の通商政策は変わらないと覚悟しよう

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

トランプの主張は伝統的な民主党の主張

 9月末から10月初めにワシントンを訪れた際、アメリカを代表する複数のシンクタンクの友人たちや政府の高官だった人に、中間選挙で与党共和党が敗北するとトランプ大統領の通商政策が変わるのではないかと質問してみた。

 彼らの答えは、おしなべてノーだった。

 ある人は、輸出が勝ちで輸入は負けだというトランプ大統領の信念ともいえる考えは、彼の骨の髄までしみこんでいるようなものなので、中間選挙で負けたからといって、変更することはありえないと語った。

 ほとんどの人が指摘したのは、もともと共和党が自由貿易主義で、労働組合を基盤とする民主党が保護貿易主義だったので、民主党が勝ってもトランプ大統領の保護貿易政策は継続されるだろうというものだった。ある人は、トランプの保護貿易主義で共和党が負けるのなら、自由貿易派の共和党の議員が反乱するかもしれないと述べていたが、少数派になった以上政策には影響できない。

 そもそも、TPPからの撤退やNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しといった保護貿易主義的な考え方は、民主党の大統領予備選挙を戦ったバニー・サンダース上院議員が主張し、これでクリントン候補を追いつめることになったものである。これを見たトランプが、本選となる大統領選挙で同様の主張を繰り返して、本来民主党の地盤だったラストベルト地域でクリントン候補を破り、見事に当選を果たしている。

 つまり、トランプ大統領の主張は、対立する民主党の伝統的な主張なのである。

民主党よりも民主党的なNAFTA見直し

 NAFTAが再交渉されて、USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)となった。トランプ政権は、共同戦線を取っていたカナダとメキシコを分断し、最初にメキシコと合意し、最終的にはカナダも入れて3か国の協定にした。カナダの参加が不確定な時期には、USMCをもじって「(US)アメリカ、(M)メイビー(C)カナダ」などという冗談も聞いた。

 トランプ大統領はカナダが言うことを聞かないなら、メキシコとだけの協定にするとカナダのトルドー首相を脅していたが、経済・貿易面でアメリカにとって重要なカナダが入らない協定をアメリカ連邦議会が承認するはずがなく、カナダも入れた三か国の協定としたことは、トランプ政権の得点だろう。

 しかもUSMCAの中身を見ると、まるで民主党よりも民主党的な政権が交渉したかのような内容となっている。

 まず、各国は労働条件や環境基準を緩和することによって競争上有利な条件を獲得してはならないという、これまで共和党は否定的で、労働組合や環境団体を支持基盤とする民主党が強く主張してきた、”貿易と労働”、”貿易と環境”という部分は、削除されることなく維持された。産業界寄りの共和党は地球温暖化対策などの環境対策には反対してきた。

 共和党のブッシュ父政権が交渉を妥結したNAFTAには、当初この部分はなかった。それを民主党のクリントン政権になってから、この二つをNAFTAの補完協定をして結ぶことで、連邦議会を通過させたという経緯がある。もちろん、民主党のオバマ政権が交渉したTPPには、この二つの章が規定されている。本来の共和党政権がNAFTAの見直し交渉をしたなら、削除しただろう。

 安全保障上の理由から鉄鋼・アルミニウムの関税をアメリカは引き上げたが、USMCAでもこれはそのままとまった。ラストベルト地域の鉄鋼等の労働者や労働組合は歓迎するだろう。

 また、為替レートを操作して競争条件を有利にしてはならないという条項が、初めて取り入れられた。これは民主党の一部が強硬に主張してきたが、民主党のオバマ政権でさえ、金融政策を貿易政策が制約してしまうという理由で認めなかったものである。それを共和党のトランプ政権が実現したのである。

 極めつきは、NAFTAと異なりUSMCAには、FT(自由貿易)という部分が欠落していることである。これは自由貿易協定ではないということだろう。

 これが来年、アメリカ連邦議会の承認を待つことになる。中間選挙で与党の共和党が勝っても負けても、USMCAは連邦議会を通過する。というより、民主党が勝った方が承認されやすい。トランプは大統領選挙で主張してきたTPP脱退とNAFTA見直しの両方を実現したことになる。

管理貿易政策の元祖は日本

 ところで、我が国では、メキシコにもカナダにも自動車の対米輸出が一定台数を超えると25%の高い関税を課すことになったことを、数量制限だとする主張を一部マスコミが展開している。

 安全保障上の理由で25%の関税をかけることは問題だが、(それを問題視するならともかく、またはそれが正当化されるのなら)これ自体はガットやWTOで禁止される数量制限ではない。

 それどころか、これは農産物で日本が多用している貿易政策なのである。

 例えば、牛肉、米、小麦、乳製品などの品目では、安い関税での輸入量が一定量を超えると高い関税がかかることになっている。しかも、その関税は、25%どころか、牛肉で50%、それ以外では200%をはるかに超える税率である。アメリカを保護貿易とか管理貿易を採ったと批判するのかもしれないが、アメリカにこの政策手法を教えた元祖は日本の農林水産省なのである。

 われわれは、ようやくアメリカも日本の域に追いついたと評価すべきなのだろうか?

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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