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来年は選挙、経済は不穏…消費増税はまた延期か

読売の大見出し、突然の首相指示、効果のあやしいポイント還元…何かがおかしい

原真人 朝日新聞 編集委員

読売新聞「消費増税 来年10月実施」の大見出し

 安倍首相の「増税方針と対策指示」のニュースは新聞各紙で大きく報じられた。とりわけ事前にこの方針を“特報”した読売新聞は14日付の朝刊1面トップで「消費増税 来年10月実施」と大見出しで報じた。

 この記事に違和感を抱いた人は少なくなかったのではないか。

 消費増税はすでに法律でも定められている話だ。軽減税率導入などの対策も既定方針である。いまさらわざわざ、このタイミングで増税方針を再確認する必要などあるのか、と。

 伝えられる理由は、中小事業者の増税準備を促すため、というものだ。多くの人々が「2回も延期したことのある政権の増税方針を信用できない」「2度あることは3度ある」と考えるのは当たり前で、増税への準備が遅れているらしい。そのため、安倍首相は増税への本気度を示し、万全の体制でのぞむ姿勢をみせるため、いくつもの対策を用意した、というのだ。

 ひとつは中小の小売業向けの、一定期間のポイント還元制度の創設だ。駆け込み消費の反動減を小さくするのがねらい。自動車や住宅購入などに関する税負担の軽減の検討、防災・減災、国土強靱化のための緊急対策などにも取り組む意向を明らかにした。

 これらを「手厚くて目配りが行き届いている対策」と前向きに評価することはできない。

 ポイント還元は複雑な制度なので、1年を切ったタイミングで検討するにはあまりに時間が足りない。効果もどこまであるのかあやしい。耐久消費財や住宅への税負担軽減策はいまに始まったものでなく、過去に何度もやっている景気対策だ。やりすぎると消費の先食いになり、結局その後の消費不振の原因になってしまう。国土強靱化は地震対策、老朽設備の更新維持としてなら理解できるものの、古くさい景気対策の発想の域を出ていないように思える。

公約を破った「新しい判断」

 この政権の動きに対し、メディアのなかには「これだけの対策を講じる以上、安倍政権もこんどこそ消費増税を必ず実施するつもりなのだろう」といった解説がある。

 だがそれは甘い見方だと思う。

 安倍首相が最初に増税延期をした2014年11月の記者会見を思い出してみよう。もともと2015年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを、安倍政権はこのとき1年半延期し、2017年4月に変更する、と発表した。ここで首相は「再び延期することはありません。ここで皆さんにはっきりとそう断言します」と公約したのだ。

 ところが、2016年6月、その公約はいとも簡単に破られる。こんどは、さらに2年半の増税先送りを決めた。その際、首相が記者会見で放った言葉は信じがたいものだった。

「これまでのお約束とは異なる『新しい判断』です」

 新しい判断という言葉で首相の約束が覆るというのなら、もはや公約などありえない。どこでどう新しい判断が出てきて覆るかわからないから、首相の言葉などはなから信用がおけない、ということになってしまう。

 実はこれより少し前まで、安倍首相は別の論理で増税を先送りしようと考えていた。「リーマン・ショック級の世界経済危機が迫っているから」という理由だ。それを先進国首脳が集まったG7の伊勢志摩サミットでにおわせたところ、各国首脳から「そんな経済状況ではない」と反論された。

 さすがにその説明は苦しくなり、苦し紛れに出てきたのが「新しい判断」という開き直りだった。


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筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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