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医学部入試の不正に、患者として声をあげよう!

医学部には多額の税金が投入されている。医学部の閉鎖性に風穴を

多田敏男 週刊朝日副編集長

文部科学省=東京・霞が関

長年の悪習がついに表に

 医学部の入学試験の不正を巡って、長年続いていた悪習が表に出ようとしている。

 文部科学省は全国81大学の医学部医学科について調査を実施。10月23日に公表した中間報告では、公平であるべき入試とはかけ離れた実態が垣間見えた。

 文科省が「不適切である可能性の高い事案」として挙げているのは次のようなケースだ。

①調査書や出願時の書類等を審査して評価する際に、現役生らには加点し多浪生には加点しないなど、属性によって取り扱いに差異を設けている
②合否判定の際に、学力検査での得点が同等でも、多浪生や女性は面接試験などでより高い評価を得ないと合格とされない場合があるなど、年齢や性別などの属性によって取り扱いに差異を設けている
③同窓生の子女らの特定の受験者については合格圏外であっても合格させている
④補欠合格者への繰り上げ合格の連絡の際に、学力検査や面接試験などの総合得点の順番に沿って連絡するのではなく、より下位の特定の受験者に先に連絡をしている

 こんなことが複数の大学で行われてきたのだ。どこの大学なのかすぐにでも知りたくなるが、文科省はなぜか名前を公表しようとしない。

不正発覚は文科省の汚職事件がきっかけだった

 柴山昌彦文科相は10月23日の会見で「大学が自主的に公表するとともに、すみやかな対応をお願いしたい」と大学側に対応をいわば”丸投げ”。大学名の公表は調査の進み具合を踏まえて検討したいとするにとどめた。

 医学部医学科の運営や研究には、国公立大学はもちろん私立大学にも多額の税金が投入されている。もっと強気に指導していいはずだが、文科省が弱腰なのには訳がある。

 今回の問題がわかったのは、文科省の科学技術・学術政策局の前局長の汚職がきっかけだった。前局長は東京医科大の私立大学支援事業に便宜を払う見返りに、息子を不正に合格させたとされ、受託収賄罪で、逮捕、起訴された。不正に合格させていた東京医科大の前理事長と前学長も贈賄罪で在宅起訴されている。

入試をめぐる不正が明らかになった東京医科大学の校章=2018年8月2日、東京都新宿区
 この事件が摘発されたことで、東京医科大で女子らの合格を抑制する目的で得点操作をしていたことも発覚。それを受けて文科省がほかの大学についても緊急調査を実施し、次々に不正が明るみに出ようとしているのだ。

 文科省にとっては身内の事件が発端だけに、大学側に強気では臨みにくい。ある医学部関係者は「文科省の失態なのになぜ我々が批判されないといけないのか、という不満がたまっている」と明かす。

 さらに、私立大の医学部入試にある程度「コネ」が通用することは、文科省の一部の幹部らは以前から知っていた可能性が高い。だからこそ、逮捕、起訴された前局長は、子どもが受験するにあたって有利な取り計らいを前理事長に頼んだはずだ。

 柴山文科相は不適切な可能性の高い事案が複数判明したことについて、こうコメントする。

「真摯(しんし)に受験勉強に取り組む受験生の努力を裏切り、大学に対する社会的な信頼を損なう事態に至っていることは大変遺憾。大学入学者選抜の公正確保についても全力を挙げて対応します」

 もっともな内容だが、不正の出発点だった文科省がいくら言っても説得力には乏しい。大学側に徹底調査を求めるならば、まず自分たちから始める。公正な試験が確保されていないことを幹部は知らなかったのか、文科省の関係者らでコネ入学した人はほかにいないのかなどを、第三者に調べてもらうべきだろう。

医学部はとても閉鎖的

 文科省が強気に出られない理由としては、医学部医学科の閉鎖性もある。

 医学部があった総合大学の出身者ならわかりやすいが、法学部や工学部などと違って”別格”の扱いだ。定員は少なく入試の難易度はずば抜けて高い。授業や学生生活もほかの学部と大きく異なる。

 学生は医師になるのが前提で、企業や公務員への就職活動はしない。6年制の医学部を卒業し医師国家試験に合格した上で、2年以上の臨床研修が必要となる。教える人も学ぶ人も医者か医者の卵ばかりで、外部の価値観は入り込みにくい。

 国立大では東大や京大、阪大など難関医学部の卒業生が、大学教授や有名病院のポストを押さえ、独自のヒエラルキーを維持している。

 私立大医学部も独立性が高い。医者になりたい人が多いため、数百万円から数千万円の高額な授業料でも、定員割れの心配はない。経営は安定しており、外部からの指導や批判は届きにくいのが実情だ。

昭和大学=2018年10月15日、東京都品川区
 こうした状況を示す場面が、最近あった。

 昭和大医学部では、現役と1浪の受験生に加点したり、同窓生の親族を優先して合格させたりする行為が発覚。10月15日に学長と医学部長が会見したが、「不正という認識はなかった」と繰り返した。

 さらに、文科省の当初の調査に対し問題はないと回答していた理由について、こう説明した。

「文科省からは『年齢による差別をしているのではないか』と質問された。現役と1浪の受験生に加点することはあったが、現役でも帰国子女らで年齢が高い人もいるので、差別には当てはまらない」(医学部長)

 この説明を聞いて納得できる人はどれだけいるだろうか。

 昭和大は会見しているだけ、まだましかもしれない。

 順天堂大では、女子が男子と比べて不利となる合格基準を設定していた疑いが浮上している。文科省から指摘を受けたとして第三者委員会の設置を10月18日に公表したが、詳しい説明はしていない。ほかの不正が疑われる大学でも、積極的に情報を開示しようという動きは見えてこない。

 通常の企業や団体であれば、疑惑が浮上した時点で謝罪会見などをする。そうしないと消費者や取引先などから見放され、組織の維持が難しくなる。

 だが、医学部では、待遇が良い医者になろうという受験生はいくらでもいるため、”お客さん”が来なくなる心配はない。評判が落ちて大学病院の患者が減ったり、補助金をカットされたりするリスクも低い。行政の影響力から離れ、世間の常識も通用しにくいなか、「自分たちのやりたいようにやる」ことが可能なのだ。

大切なのは私たちの「一般感覚」だ

 全国の医学部医学科では、全国医学部長病院長会議の中に新設された「大学医学部入学試験制度検討小委員会」で、議論や調査を進めるという。もちろんこの小委員会のメンバーは、東大医学部長ら医学界の人たちである。受験生や消費者の声は届きにくい。このままでは医学界の内向きの論理が優先され、不十分な調査や検証のまま、幕引きされる恐れもある。

 では、どうすればいいのか。

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