違法木材規制の切り札のはずが、使用の隠れ蓑にも
2018年10月26日
こうした木材を購入することは現地の森林破壊を助長すると、欧米からは厳しい目が向けられている。
すでに違法木材の流通は世界的な問題となっていて、各国で規制のため法整備が進んでいる。日本では、昨年5月にクリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)が施行された。日本も世界の潮流に乗ったかに見えるのだが……よくよく内容を吟味すると、疑問だらけの法律だった。
各国の伐採規制に反して盗伐された木材(違法木材)が世界中で流通している事実は以前から指摘されてきた。そのため森林が劣化し、希少な動植物の生息環境を破壊するだけでなく地球温暖化を進めているとされる。国際森林研究機関連合の報告書では、違法伐採の疑いのある木材の取引総額は年間63億ドル(2014年)にも達しており、一部では国際的な犯罪組織や戦争に関わる武装組織の資金源になっているとする。
この問題は、すでに地球サミット(1992年)でも取り上げられており、森林原則声明が出された。1997年のデンバーサミットでは、より厳しく包括的な世界森林条約の締結に向けて動き出したが、議長国のアメリカが反対。その代わりに持ち出したのが、違法木材の取引禁止だった。原産国の取り締まりだけでは限界があるため、輸入国が規制すべきという発想である。日本もグレンイーグルスサミット(2005年)で違法木材の問題を取り上げて、公共事業に使う木材に合法証明を求めるグリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)を施行した。この時点で日本は先んじていたのだが、欧米も次々と厳しい輸入規制を掛けていく中、日本ではそれ以上の規制は行わなかった。
環境NGOの推計によると、日本が輸入する木材の約1割が違法木材あるいはその疑いのあるグレーな木材とされ、少なくとも1500万ドル分の木材が流入したと推計されている。2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて建設されている新国立競技場でも、グレーな東南アジア産のコンクリートパネル用合板が使用されたことに、国際的な環境NGOだけでなく国際オリンピック委員会のメンバーからも批判の声が上がった。だからクリーンウッド法が施行されたことで、今後は規制されると思われたのである。
そこでクリーンウッド法の中身を検証する前に、欧米の違法木材に関する法制度や森林認証制度の内容を確認しておこう。
まずアメリカの改正レイシー法(2008年施行) では、米国法や外国法に違反して輸入や輸出、販売、受領、購入等を行った場合、および虚偽の記録や明細、ラベル、証明などを行った場合は罰則が課せられる。ここで重要なのはリスク評価やリスク回避の義務もあることで、グレー木材を扱っても処罰対象になることだ。明確な違法性を証明できなくても合法と確認できない時点でアウトとしたのである。そしてEU木材規制(2013年)、オーストラリアの違法伐採禁止法(2014年)なども同じような内容で発効されている。
一方、政府レベルの取り組みとは別に生み出されたのが森林認証制度だ。第三者が森林経営や木材流通を審査して環境に配慮した森林経営を行い、不当な木材が混じらないようチェックする制度が国際NGOなどによって作られた(森林管理協議会FSCの制度発足は1993年)。ほかにも各国の森林認証制度を相互認証するPEFCという制度も作られた。いずれの認証もトレーサビリティーを重視しており、認証を受けた木材にラベリングをして積極的に購入されることで環境の破壊につながる林業を追放しようという考え方から成っている。今や欧米の林業地のほとんどが認証を取るほどの広がりを見せている。すでに世界の森林の約2割が何らかの認証を取得するまでになった(日本は約2%)。
欧米が森林管理に厳しい目を向けるのは、違法木材が原産国の森林を破壊するだけでなく、不当で廉価な木材が流入すれば自国の林業や木材産業を圧迫し、持続可能な森林経営が行えなくなると認識しているからだ。だから合法木材証明や森林認証の取得が木材取引のプラットフォームとなりつつある。
さて日本がようやくスタートさせたクリーンウッド法だが、その内容を確認するとお粗末すぎる。
まず合法木材を使うのは努力義務であり、罰則がない。もちろんグレー木材は何ら規制されていない。基本理念からして「合法木材推進」であり、「違法木材の規制」ではない。その点を林野庁に問い合わせると、
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