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疑問だらけのクリーンウッド法

違法木材規制の切り札のはずが、使用の隠れ蓑にも

田中淳夫 森林ジャーナリスト

拡大ライトアップされたj興福寺の中金堂を眺める人々=10月22日、奈良市
 10月7日、奈良の興福寺で中金堂の再建を祝う落慶法要が営まれた。8年かけて建てられた中金堂は、幅約37メートル、奥行き約23メートル、高さ約21メートル。東大寺の大仏殿に次ぐ巨大木造建築だ。創建当初の姿に近いとされるが、そこには直径77センチ、長さ10メートルの柱が36本、直径62センチ、長さ5,3メートルの木材が30本使われている。これだけの巨木を大量に集めるのは日本では無理だったため、アフリカのカメルーンで調達されたアフリカケヤキである。実際はケヤキとまったく別のマメ科のアフゼリア(もしくはアパ)という木だ。天然林から採取されており、現在は伐採禁止である。興福寺は禁止になる以前に購入したと説明するが、現地事情を鑑みると違法に伐採されたか、グレー(合法と確認できない)木材の可能性が極めて高い。

 こうした木材を購入することは現地の森林破壊を助長すると、欧米からは厳しい目が向けられている。

 すでに違法木材の流通は世界的な問題となっていて、各国で規制のため法整備が進んでいる。日本では、昨年5月にクリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)が施行された。日本も世界の潮流に乗ったかに見えるのだが……よくよく内容を吟味すると、疑問だらけの法律だった。

違法木材が世界中で流通

 各国の伐採規制に反して盗伐された木材(違法木材)が世界中で流通している事実は以前から指摘されてきた。そのため森林が劣化し、希少な動植物の生息環境を破壊するだけでなく地球温暖化を進めているとされる。国際森林研究機関連合の報告書では、違法伐採の疑いのある木材の取引総額は年間63億ドル(2014年)にも達しており、一部では国際的な犯罪組織や戦争に関わる武装組織の資金源になっているとする。

 この問題は、すでに地球サミット(1992年)でも取り上げられており、森林原則声明が出された。1997年のデンバーサミットでは、より厳しく包括的な世界森林条約の締結に向けて動き出したが、議長国のアメリカが反対。その代わりに持ち出したのが、違法木材の取引禁止だった。原産国の取り締まりだけでは限界があるため、輸入国が規制すべきという発想である。日本もグレンイーグルスサミット(2005年)で違法木材の問題を取り上げて、公共事業に使う木材に合法証明を求めるグリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)を施行した。この時点で日本は先んじていたのだが、欧米も次々と厳しい輸入規制を掛けていく中、日本ではそれ以上の規制は行わなかった。

 環境NGOの推計によると、日本が輸入する木材の約1割が違法木材あるいはその疑いのあるグレーな木材とされ、少なくとも1500万ドル分の木材が流入したと推計されている。2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて建設されている新国立競技場でも、グレーな東南アジア産のコンクリートパネル用合板が使用されたことに、国際的な環境NGOだけでなく国際オリンピック委員会のメンバーからも批判の声が上がった。だからクリーンウッド法が施行されたことで、今後は規制されると思われたのである。

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筆者

田中淳夫

田中淳夫(たなか・あつお) 森林ジャーナリスト

1959年大阪生まれ。静岡大学農学部卒。日本唯一の森林ジャーナリストとして森林と人間の関わりをテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『森林異変』『森と日本人の1500年』(ともに平凡社新書)のほか、『日本人が知っておきたい森林の新常識』(洋泉社)、『樹木葬という選択』(築地書館)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)など多数。

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