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最近まで採用部長だった記者が明かす就活最前線

企業も就活生も「選ばれる」時代へ。対等なルールが欠かせない

山口智久 朝日新聞オピニオン編集部次長

「あなたには職業選択の自由が憲法22条で保障されています」

 朝日新聞社から内定の連絡を受け、社を訪れた時でした。緊張しながら面談の席に着くと、当時の採用担当部長は「君の人生なのだから、ゆっくり考えるといい」と話してくれました。内定を得たら、何かと決断を急かす他社とは違ったので、何という寛大な対応だろうと感銘したのを覚えています。

 ところが1年後、新人記者として高校野球を取材していた時です。球場の記者席に設置された電話が鳴り、出てみると人事部の採用担当者でした。私を面談してくれた、あの採用担当部長ではない別の社員でした。「君の大学の後輩に内定を出したのだが、民放のテレビ局にも内定している。そっちを断るように説得してくれ」。昨年と対応とは、えらい違い。それほど親しい後輩ではありませんでしたが、電話でしばらく話をしてから「君の人生なのだから、ゆっくり考えるといいよ」と伝えました。結局、その後輩は民放のテレビ局に行ってしまいました。

 それから25年を経て、私は採用担当部長となりました。内定者との面談では「こちらとしては是非あなたに入社してほしいが、あなたには職業選択の自由が憲法第22条で保障されている」とまず伝えるようにしました。本当は、ほかの社を受けてほしくないが、あなたを止めることはできない。進路で迷っているのであれば相談してほしい、と話しました。

 内定者向けには、会社や仕事を知るさまざまな機会を設けました。ワークライフバランスが気になる学生には、子育てしながら働いている社員と話す懇談会を開きました。記者で入社すると最初の職場は地方の総局になるので、総局見学会も催しました。テレビ局の記者との違いが気になる学生には、テレビ局から転職してきた記者の話を聞かせました。

 これらのイベントはいずれも自由参加で、出席しなければ内定を取り消すというものではなく、授業やゼミがあればそちらを優先してほしい、と伝えていました。もちろん、こちらとしてはこうしたイベントへの出欠状況から、内定者が他社と迷っていないかどうかを把握するという狙いもありますが、内定者にはできるだけ弊社への理解を深め、納得したうえで入社してほしいという思いがありました。

 ただ、こうした努力も空しく、内定を辞退して他社を選ぶ学生もいました。私のこのような姿勢を「甘い」と感じている社内の人たちがいたかもしれません。でも、前述のような経験から私は「選ぶ権利は、企業だけでなく、学生にもある」「十分納得した上で入社してほしい」という思いでいました。

「学生の囲い込み」横行 

 できればほかの社も、応募者や内定者が他社の採用試験を受け続けることに寛容になり、どの道に進むかは彼ら・彼女らの選択に委ねほしいものです。ところが、実際は「早めに優秀な学生を囲い込み、他社を受けないようにさせる」という採用手法が横行しています。

 例えば、インターンシップから採用選考を始める会社があります。弊社の内定者から聞いた話では、ある会社のインターンに参加したら、採用選考に応募もしていないのに「面接体験」に招かれ、社員と数回の「面接体験」を重ねていったら、いつの間にか内定したようです。「他社には応募しないように」と念押しされ、内定を取り消されるのを恐れて、どこにも応募しなかったそうです。少し落ち着いてから知り合いに相談してみると、そうした念押しには法的な強制力がないことを知り、弊社の2次募集に応募してくれました。

 インターンで採用選考していると聞けば、就活生としては内定を得るチャンスとみて、すべてのインターンに応募するようになってしまいます。例えば、新聞記者という仕事を知りたいのであれば、ある新聞社1社のインターンに参加すれば十分です。ところが、採用に直結している新聞社のインターンがあったら、新聞記者になるためにそうしたインターンにはすべて参加しようとします。

 また、大学の授業がある学期中にインターンを開く会社が増えているようです。そうすると、授業やゼミを休むことになります。インターンを開くのは、大学3年の夏から4年の冬にかけてです。大学では専門課程が始まり、ゼミなどでは研究テーマを練り始める頃です。

 ある内定者によれば、厳しい選考を経て入った人気のゼミなのに、ゼミ生のほとんどがインターンに出かけて、誰もゼミに来ないということがあったようです。指導教官は怒りたいでところでしょうが、かわいい教え子の将来がかかっていると考えると、インターンへ行くのを止めるのもためらうでしょう。

 インターンが採用選考の場となると、参加者も気が気ではありません。弊社では、インターン中に採用面接はしていないのですが、インターン担当者から聞いた話によれば、インターン中に参加者たちと昼食をとっていたとき、「どうして新聞社に興味があるの?」と何げなく聞いたところ、空気が一変し、箸を止めてそれぞれ志望動機をはきはきと話し始めたようです。雑談中にも評価されていると思ったのでしょう。

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筆者

山口智久

山口智久(やまぐち・ともひさ) 朝日新聞オピニオン編集部次長

1970年生まれ。1994年、朝日新聞社入社。科学部、経済部、文化くらし報道部で、主に環境、技術開発、社会保障を取材。2011年以降は文化くらし報道部、経済部、特別報道部、科学医療部でデスクを務めた。2016年5月から2018年10月まで人事部採用担当部長。

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