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海外から強まる「再生エネ100%」圧力

原子力や石炭火力にこだわる日本政府を待っていられない。民間企業が動き出した

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 日本企業が再生可能エネルギーの拡大にあわただしく動き始めた。再生エネ拡大を旗印に今年7月に発足した「気候変動イニシアティブ」(JCI)に165社が参加。「再生エネ100%」を実現する企業も登場している。石炭火力や原子力にこだわり、再生エネ拡大に腰が定まらない日本政府をしり目に、民間が先行する形が出来つつある。

アップルの要請に応じて再生エネ100%を実現したイビデン本社の太陽光発電=同社HPより

アップル向け生産を100%再生エネに

「(1997年の)京都議定書では、日本は世界の気候変動対策の最前線にいたが、20年後の今日、主導的な役割を果たしているとは言い難い。取り組みのテンポを速め、国際社会に範を示すべきだ」

 JCIはその設立宣言で、政府の対応の遅さに不満を表明した。参加メンバーは当初190団体だったが、3か月後には242団体に増加。企業165社、24の自治体、53のNPO・研究機関が参加する大組織になった。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が10月に発表した予測では、地球の平均気温は産業革命以前に比べてすでに1度上昇。早ければ2030年に1.5度上昇して危機ラインに達する。予想を上回るペースであり、これを抑えるにはCO2の排出を2030年までに45%削減(2010年比)、2050年には実質ゼロにする必要があるとしている。

 この地球環境最大のリスクに対し、欧米の巨大企業は敏感だ。自社の事業活動で再生エネ100%を目指すだけでなく、サプライチェーン(部品供給網)に参加する世界の取引先に対してCO2削減の圧力をかけている。

 アップルはその代表例。プリント基板用の部材を生産する太陽インキ製造(本社・東京)は今年5月、アップル向け生産を100%再生エネにすることを決め、2つの太陽光発電所を建設した。電子部品メーカーのイビデン(本社・大垣市)も20の太陽光発電所を作って再生エネ100%を実現した。

 いわば「外圧」の下、先進的な企業が動き出している。アップルは「世界の取引先約90社が同調してくれた」という。

 圧力は投資ファンドからもかかる。彼らはESG投資(環境保護、社会性、企業統治を重視した投資)を実践し、この3テーマに前向きに取り組む企業を投資対象に選定する。

 気候変動に感度が鈍いとみなされた企業は資金調達の面で不利になる。ノルウェーの政府年金基金は石炭火力の比率が高い中国電力、北陸電力、四国電力など日本の5社を投資対象から外した。

 この広がりを見た丸紅は9月、世界で保有する石炭火力の権益(300万キロワット分)を売却し、2030年までに半分に減らすことを決めた。今後、石炭火力の新規開発からは手を引き、再生エネや人材開発に資金をシフトする。

世界の再生エネの発電コストは急速に低下

 欧米企業が再生エネに熱心な理由は、何より発電コストが著しく低下しており(下のグラフ)、関連する技術やビジネスモデルを確立する好機と見ているからだ。

 太陽光発電のコストは、2009年には36円/キロワット時だったが、2017年には5円に下がった。風力発電も14円から4.5円に低下した。両者とも原子力の15円、石炭火力10円、最新型LNG火力6円を下回っている。原子力だけが安全基準強化に伴い上昇している。

 しかし、日本では逆に、太陽光発電の買取り価格は事業用18円、住宅用26円、風力発電も20円と割高で、経産省が示す原子力10円、石炭火力12円、LNG火力14円を上回っている。

 なぜ日本の再生エネは高いのだろうか。

 太陽光発電の場合、パネルの価格は欧米と差はないが、設置工事費が高くてコスト全体の約8割を占めている。工事の効率が悪く時間や手間がかかりすぎている。このため欧米のような「再生エネのコスト低減と導入拡大の好循環」が生まれない。

 もう一つの理由は、政府が再生エネを断固として将来の基幹エネルギーにするという政治決断をしないことにある。エネルギー基本計画は「再生エネを主力電源化する」と述べているが、実態は石炭火力や原子力発電を優遇している。これでは民間企業は再生エネの技術開発や市場開拓に二の足を踏む。

三菱重工がデンマーク企業と組んで欧州で建設した洋上風力発電=三菱重工HPより

 たとえば洋上風力発電。制約がある陸上と違って大型化でき、しかも洋上は風が安定しているのでコストは低い。いま再生エネの最有望株とされる。

 ところが、その技術を持つ三菱重工は大型の9500キロワット機をデンマーク企業と開発し、日本ではなく需要が絶好調な欧州で販売している。日本のエネルギー基本計画は風力を重視しておらず、市場の成長が見込めないのでパスしたのだ。

世界に逆行し、原子力と石炭を優遇する日本

 日本のエネルギー基本計画は2030年度の電源構成を下の表のように定めている。


 「主力電源化する」という再生エネの比率は22~24%だが、欧米はドイツ50%以上、フランス40%、EU全体45%、英国30%、米国26~28%(カリフォルニア州とニューヨーク州は50%)などで、約40%というのが先進国の姿だ。日本は約半分でしかない。

 その一方で石炭火力は26%とされ、今も全国で33基の新増設計画が進んでいる。世界は石炭火力をなくす方向だが、経産省は過去30年間、石炭火力の高度化に多額の補助金を投じてきた。業界の権益もあり、簡単には縮小できないのだ。

 また原子力は22~20%である。専門家は「いま9基が再稼働済みだが、目標を達成するには30基の再稼働が必要。廃炉も増える中で実現はとても困難」と疑問を示す。しかし、経産省にとって原子力は石炭以上に関わりが深い業界で、ベースロード電源としての位置付けは変えていない。

 再生エネを本気で拡大するには、送電網の広域化が急務である。

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