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世界経済の大転換期

榊原英資 (財)インド経済研究所理事長、エコノミスト

 世界は、今、二重の意味で大きな転換期を迎えている。中長期的には、いわゆる「リオリエント」現象が進行中だ。つまり、世界の中心がオリエント(アジア)に方向転換(リオリエント)をしているというのだ。19世紀初めまではアジアが世界経済の中心だった。イギリスの経済史の専門家アンガス・マディソン(1926~2010年)の推計によると、1820年には中国が世界のGDPの28.7%、インドが16.0%を占めていた。中国・インド両国で実に世界のGDPのほぼ半分を有していたのだ。さらに、時代を遡ると、両国のシェアは一層増加し、15~16世紀には70%近くを占めていたとされている。

 中国とインドが没落したのは19世紀半ばから。欧米列強によって他の多くのアジア諸国とともに植民地化されてしまったのだ。1840~1842年の阿片戦争を経て、1842年から香港はイギリスの植民地となり、植民地化は1997年まで続いた(1842年の南京条約)。また、1860年の北京条約によって九龍半島も清国からイギリスに割譲された。第2世界大戦前、欧米に植民地化されなかったアジアの国は日本のみであった(タイは形式的には独立を保ったが、事実上イギリスの支配下にあった)。日本は太平洋戦争に突入するにあたって「アジア解放」をその大義として掲げたが、アジア唯一の独立国日本が「アジア解放の夢」を掲げたことは適切であったということができるのではないだろうか。

高成長を遂げるアジア

 そして、第2次世界大戦後、アジアの国々は次々と独立を果したのであった。1946年7月にフィリピン、1947年8月にインドとパキスタン、1948年にスリランカとビルマ連邦、1949年にはインドネシアが独立した。1949年には中華人民共和国が設立され、中華民国は台北に遷都した。その後、アジアの国々は極めて高い成長率を達成したのだった。

全人代で握手を交わす習近平国家主席(下段左)と李克強首相=2018年3月18日、北京

 まず、高成長を遂げたのは日本だった(1956~73年の年間平均成長率は9.1%)が、それに韓国・台湾・香港・シンガポール(アジアの4匹の虎)が続き、1980年代から90年代に入ると中国とインドが高成長プロセスに入っていった。1979年から2008年の30年間、世界の成長率のトップ10はすべてアジアの国々だった。トップは中国の年平均成長率9.8%、それにシンガポール(7.0%)、ベトナム(6.6%)、ミャンマー(6.4%)、マレーシア(6.3%)、韓国(6.3%)、台湾(6.3%)、ラオス(6.1%)、タイ(5.8%)、インド(5.8%)が続いた。

 ちなみにこの時期、アメリカの年平均成長率は2.9%、日本のそれは2.4%だった。まさに「リオリエント」現象が実現したのだった。プライスウォーターハウス・クーパース(PwC)の予測によると、

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