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日本が中国の「一帯一路」へ組み込まれていく

欧米が警戒を強める習近平の経済圏構想に入る安倍日本の行方は大丈夫か

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

中国の習近平国家主席(右手前)と会談する安倍晋三首相(左手前)=2018年10月26日、北京の釣魚台国賓館

 10月末に北京で開かれた日中首脳会談。日本は、中国が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の国々を「第3国市場」と呼び変え、52の案件で中国と協力することで合意した。

 しかし、一帯一路では過大な対中債務を抱える国が続出(下の表)している。米国も警戒を強めており、日本の立場が難しくなる恐れがある。

強烈な中国敵視論を語ったペンス副大統領 

 米国の対中姿勢は、ペンス副大統領が10月4日、米保守系シンクタンクのハドソン研究所で行った50分間の演説に集約されている。そのポイントはこうだ。

①米国は中国が平和国家になると信じて技術や資金を支援したが、裏切られた
②国際秩序を有利に変えようとする中国に対し、米国は新たな姿勢で臨む
③中国は強制的な技術移転、知的財産の窃盗など不公正な政策を行っている
④米国は企業の知的財産を守るため、中国からの投資を厳しく監視する
⑤一帯一路は「借金漬け外交」であり、融資条件は不透明で利益は中国に流れる
⑥習主席は「南シナ海は軍事化しない」との約束を破り、ミサイルを配備した
⑦中国は米国の大学や研究機関に圧力をかけ、自由な言論を破壊している

 演説の⑤で、ペンス氏はスリランカでの港湾建設を例に取り上げ、「巨額な債務を負った同国は、中国から港湾を渡すよう圧力をかけられた。将来、中国遠洋海軍の基地になるかもしれない」と非難した。

日本を引き入れ、一帯一路の信頼感を高めたい中国

 今回、日中が協力する52案件は、第3国市場でのインフラ建設、再生可能エネルギー、製造・物流のスマート化、金融などで、総額は約2兆円だ。

 一帯一路を「第3国市場」と呼び変えるアイデアは、経団連の要望を受けた安倍首相が昨年11月、習主席に提案した。呼び変えは米国が敵視する一帯一路を表に出さないための工夫である。

 一帯一路の対象国の多くは先の表で見るように、中国の融資による過大な対中債務を抱えている。マレーシアやモルディブでは計画の見直しが行われた。今後も多くの国で政治混乱が起きる恐れがある。日本は中国と一緒にそこに入って行く。

 中国は日本を引き込むことで一帯一路の信頼感や透明性を高め、行き詰まりを打開したい。日本は新たな市場やビジネスが欲しい、と両者の思惑が一致した。

 人民日報電子版によると、李克強首相は日本の政財界人を前に「中国は最大の開発途上国だ。国民生活の改善が政府の任務」と述べた。国家の位を下げた謙虚な物言いである。中国は日本に愛想のいい顔を見せている。

 要注意なのは52案件の協力相手のほとんどが国有企業という点だ。

 例えば経団連会長会社の日立は電力分野で中国東方電気集団と、住友商事は製造・物流の自動化やスマート化で中国国際海運集団と、メガバンクは国有銀行と組む。

 中国は国有企業の共産党支配を一段と強化している。昨年は「社内に共産党組織を設置し、経営判断は党組織の見解を優先する」などの文言を定款に明記するよう要求。経営への党の介入を正当化した。

 国有企業は市場の論理よりも、最終的に党が求める国益実現のために動く。近年の統合によって国有企業は巨大化し、国家統制下にあって経営効率が悪い。日本企業が手助けすれば大助かりだ。

52案件は本当に現地のためになるビジネスなのか

 9月末に開かれた日米首脳会談の共同声明では、中国を念頭に「知的財産の収奪、強制的な技術移転、国有企業による(貿易の)歪曲化や過剰生産を含む不公正な貿易慣行に、日米または日米欧3極で対処する」と国有企業を断罪した。

 そのわずか1か月後の日中首脳会談で、日本は手の平を返したように国有企業と密接に協力すると宣言した。「不公正への対処」はどうなったのか。52案件は本当に現地のためになるビジネスなのだろうか。

 米国はこの事態をどう見ているのだろうか。今のところ非公式に「米国の国益に反しない限り静観する」と報道されている。

 しかし、米国の本音は、一帯一路が日本の参入で活発になることに警戒的だ。米国が何かの案件で「国益にかかわる」と判断すれば、日本に「指導」を出すこともありうるだろう。どの国益を優先するのか、日本は米中対立の狭間で難しい立場になる。

「中国製造2025」のシナリオが狂う?

 一方、ハイテク分野では米国の中国企業への締め付けが続いている。

 10月には半導体メーカーの福建省晋華集成電路(JHICC)が知財スパイ容疑で起訴され、4月に制裁された通信機メーカーZTE (中興通訊)に次ぐ2社目となった。ともに中国のITを代表する企業である。

制裁を受けた福建省晋華集成電路の本社=同社HPより

 JHICCは米国から半導体製造装置や部品を輸入してDRAM(メモリー)を生産している。容疑は「米半導体大手マイクロン・テクノロジーの企業秘密を盗み出した」というもの。

 JHICCは中国を製造強国に育てる「中国製造2025」の中核企業だ。DRAMの生産が困難になれば、影響は家電やロボット、自動運転など中国の先端産業全体に及ぶ。米国が敵視する「中国製造2025」のシナリオを狂わせる一撃になりそうだ。

 7月には、アップルの自動運転技術を中国に持ち帰ろうとした元同社員の中国人が逮捕された。中国は海外で働く科学者や技術者を本国に呼び戻す政策(海亀政策)を進めており、逮捕された社員もその一人だった。

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