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米中貿易摩擦の緩和は人民元高なのか

武田淳 伊藤忠経済研究所チーフエコノミスト

貿易摩擦の緩和期待で人民元反発

拡大毛沢東が印刷されている中国のお札
 関税の応酬という形で激しさを増してきた米中の貿易摩擦であったが、ここにきて緩和への期待が高まっている。11月1日、米国トランプ大統領と中国習近平国家主席が半年ぶりとなる電話会談を実施、貿易問題や北朝鮮情勢について意見を交換した。その内容が良好だったとトランプ大統領のツイッターで伝えられると、11月末のブエノスアイレスG20に合わせて開催が検討されている米中首脳会談において両国が何らかの合意に達し、貿易摩擦のエスカレートに歯止めが掛かるのではないかという観測が強まった。

 これを受けて人民元はドルに対して大きく反発した。人民元相場は、4月の1ドル=6.2元台から10月末にかけて約11%も下落、2008年5月以来となる1ドル=7元近くまで水準を切り下げていたが、その後の2日間で6.8元台へ値を戻している。ただ、仮に今後、本当に米中の貿易摩擦が解消していくとしても、人民元相場が上昇傾向になるのかといえば、そう簡単な話ではないだろう。

米中ファンダメンタルズ格差が元安圧力に

拡大全人代で握手を交わす習近平国家主席(下段左)と李克強首相=2018年3月18日、北京
 そもそも、4月以降、人民元相場が下落した背景について整理しておく必要がある。一部には、中国政府が貿易摩擦による影響を緩和するため、人為的に人民元安へ誘導しているのではないかという見方もあるが、そうするまでもなく、為替相場へ強い影響を与える経済ファンダメンタルズを米中で比較してみれば、ドル高・人民元安が必然であったことが容易に分かる。

 為替相場への影響という観点でまず挙げられるのは米中の金利差であり、これまでは基本的に中国の金利が米国より高く、それが人民元高圧力となっていた。例えば、残存期間5年程度の中国の国債利回りは、2018年初め頃には4%を超えていたが、米国債5年物利回りは2%台前半であった。ところが、その後、米国FRBが3月、6月、9月と利上げを続けたことを受けて米国債5年物利回りは3%前後まで上昇、一方の中国国債利回りは、人民銀行が4月、7月、10月と3回も預金準備率を引き下げ、事実上の金融緩和を行ったことから3.4%台まで低下しており、その差は急速に縮まっている。

 また、中国の大幅な経常収支の黒字も、これまでは人民元高要因となっていたが、こちらも状況が変わってきている。中国の経常収支は、2018年1~3月期、実に約18年ぶりとなる赤字(▲341億ドル)に転じ、翌4~6月期は黒字に戻したものの、わずか53億ドル、前年同期(526億ドル)の10分の1にとどまるなど、明確に悪化している。主因は貿易黒字の縮小であり、さらに掘り下げると、資源価格の上昇により輸入が増加した一方で輸出が伸び悩んでいることが原因である。なお、米中貿易摩擦は今のところ中国の貿易黒字を削減させるどころか、むしろ拡大させる方向に働いている。大豆など米国からの輸入は減少したが、米国向けの輸出は関税引き上げを控えた駆け込み的な動きもあり増加しているためである。

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筆者

武田淳

武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠経済研究所チーフエコノミスト

1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、調査情報部、伊藤忠経済研究所で主任研究員をつとめる。

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