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平成とともに始まった消費税を振り返る

森信茂樹 東京財団政策研究所研究主幹

拡大消費税導入の初日、買い物をする竹下登首相(当時)夫妻=1989年4月1日、東京都中央区日本橋
 平成という時代は消費税とともに始まった。

 消費税が導入されたのは平成元年(1989年)4月である。87年に中曽根総理(当時)が「売上税」という名称で法案化したが、「大型間接税は導入しない」としていた選挙公約違反だとして野党が反対、廃案に追い込まれた。この時自民党幹事長だった竹下登氏が、汗を書いて野党を説得し、衆議院議長の斡旋という誰も考えつかないような手法を使って誕生させたのが「消費税」だ。

「消費税は総合芸術」

 筆者は、竹下総理から「消費税は総合芸術だわな」という話を聞いた記憶がある。消費税というのは、経済や財政の理論としていくら正しくても、国民が納得しなければ導入できない、国会で与党が多数を握っていても、法律を通過させるには周到な野党への根回しが必要だ、政治家としての究極の技量が必要、腕の見せどころだ、というようなことであった。

 最近の政治家の中には、「増税を語れば選挙で落ちる」と敬遠し口を閉ざすことが賢明という風潮があるが、自らの進退と引き換えに消費税法案を成立させた竹下総理の消費税導入は、国民は最大の勲章と評価しているのではないか。

 消費税導入時の大義名分(スローガン)は「直間比率の是正」であった。このことをわかりやすく説明したのは、英国のサッチャー首相である。彼女は、英国で同じような税制改革を行った折に、「勤労の成果である所得への課税は勤労へのバッシングになる。これを軽減して勤労インセンティブを高めるとともに、消費という欲望の充足に対して課税することは、消費者に課税の選択をあたえる(消費税を払いたくなければ消費をしなければいい)ことである」という趣旨の演説をしている。

 加えて、所得税は「クロヨン」という言葉(所得の捕捉率がサラリーマンと個人事業者などで異なること)に代表されるような不公平の問題があるが、消費税は消費という事実行為に課税するので公平性が高いこと、安定的な税収が得られるので社会保障制度が安定すること、高齢世代も負担するので世代間での負担の公平性が高まることなども導入の理由として挙げられた。


筆者

森信茂樹

森信茂樹(もりのぶ・しげき) 東京財団政策研究所研究主幹

1950年生まれ、法学博士(租税法)。京都大学法学部を卒業後、大蔵省入省。1998年主税局総務課長、1999年大阪大学法学研究科教授、2003年東京税関長、2004年プリンストン大学で教鞭をとり、2005年財務総合政策研究所長、2006年財務省退官。この間東京大学法学政治学研究科客員教授、コロンビアロースクール客員研究員。06年から18年まで中央大学法科大学院教授、(一社)ジャパン・タックス・インスティチュート(japantax.jp)所長。10年から12年まで政府税制調査会特別委員。日本ペンクラブ会員。著書に、『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版)『税で日本はよみがえる』(日本経済新聞出版)、『未来を拓くマイナンバー』(中央経済社)『消費税、常識のウソ』(朝日新書)『日本の税制 何が問題か』(岩波書店)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除』(共著、中央経済社)『どうなる?どうする!共通番号』(共著、日本経済新聞出版社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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