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AI・非常勤講師任せの「負け組」教育

公教育の市場化で教育格差が拡大した米国の後を追うのか

鈴木大裕 教育研究者 土佐町議会議員

貧困地区で教えることが教師のリスクになった米国

 大阪市が制度設計を進めているメリットペイ制度は、教育現場に対して学力標準テストに基づく結果責任を問うものであり、この制度の導入は学校そして教員のあり方を根本的に変えてしまう。

 もし市長に、何が何でも学力テストの点数を上げろと言われたら、学校はテスト対策に集中せざるを得なくなる。そうなれば、学校にとってテスト対象外の教科は二の次となり、部活動、委員会活動、運動会や合唱コンクール、そして修学旅行などの行事など、従来大切にされてきた教育活動は犠牲になり、学校がしだいに「塾化」していく。

 それは同様の道を辿ったアメリカの例を見れば一目瞭然だ。

拡大アメリカで急成長している公設民営学校、ロケットシップ・パブリックスクール(Rocketship Public Schools)。正規教員を減らし、時給15ドルの無免許のインストラクターが一度に最高130人の生徒を「監督」することによって、1年間で約50万ドルを節約できるという。教員の半分は教員経験2年未満だ(オンラインジャーナル「Labor Notes」より:Winslow, S. (2013). Charters get kids cubicle ready. Labor Notes)

 2002年の「落ちこぼれ防止法」以降、アメリカは国単位で公教育に市場原理を取り入れ、学力標準テストで学校や教員を競わせることで、点数を軸にした教育の徹底管理を進めてきた。テストで点数の取れない貧困地区では、授業時間を増やして朝から晩までテスト対策をするスパルタ式の塾のような公設民営学校(チャータースクール)が激増し、従来の公立学校を次々と廃校に追いやった。

 しだいに、従来の公立学校でもテスト対策に重きが置かれるようになり、教育産業と政治の癒着もあってドリル学習と模擬試験が全国的に激増し、テスト教科外の時間がテスト対策に奪われるようになった。クラブ活動や行事などの課外活動は縮小され、成果を残した取り組みが「ベストプラクティス」として拡散されるようになった。

 メリットペイ制度の導入などによって結果責任の支配が拡大するにつれ、数多くのベテラン教師が、裕福な郊外の学校へと逃げていった。教育的ニーズが高く、テストで点数を取れない貧困地区の子どもたちを教えることが、教員にとってのリスクとなったのだ。

 両親とも教養が高く教育熱心な地域では、テスト対策をしなくても生徒たちがある程度点数を取れるため、裕福な地域ほどテストを気にせずに、文武両道の伸び伸びとした全人教育を与えられる反面、都市部の貧困な地域になればなるほど、何とかして子どもたちの点数を上げようと、テスト対策に明け暮れるようになった。

 そして、ベテラン教師の多くが郊外へと流れてしまった結果、最も教育的ニーズの高い貧困地区の子どもを、最も知識も経験も浅い新米教員たちが教えるという、なんとも不幸な状況が生まれた。

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筆者

鈴木大裕

鈴木大裕(すずき・だいゆう) 教育研究者 土佐町議会議員

16歳で米国に留学。1997年コールゲート大学教育学部卒、1999年スタンフォード大学大学院修了(教育学修士)。日本に帰国し2002年から千葉市の公立中に英語教諭として6年半勤務。2008年に再渡米し、フルブライト奨学生としてコロンビア大学教育大学院博士課程へ。現在は高知県土佐町で教育を通した町おこしに取り組むかたわら、執筆や講演活動を行う。著書に『崩壊するアメリカの公教育:日本への警告』(岩波書店)

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