メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ゴーン会長だけが悪いのか?

かつては日本的慣行に流され、ゴーン支配下では顔色をうかがった日産経営陣

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

カルロス・ゴーン氏=2013年5月10日、横浜市西区

ゴーン氏を「強欲な帝王」に仕立てた日産の体質

 日産のカルロス・ゴーン会長が、金融商品取引法違反の容疑で逮捕され、解任された。ゴーン氏の数々の違法行為とともに、ルノーと日産の経営統合を画策するフランス政府の思惑も明らかになってきた。今後はゴーン氏の裁判と日仏間の交渉が絡みながら攻防が展開される。地に堕ちた日産の企業統治は正常化できるのだろうか。

 テレビ番組はゴーン氏を「コストカッター」と紹介する。「コスト削減をした、ただそれだけの人」というニュアンスがこもり、金に汚い男のイメージが強くなっていく。

 しかし、長年、自動車産業を見てきた筆者の感想は少し異なる。ゴーン氏の行為は許されるものではないが、この人物をかくも強欲な帝王に仕立て上げた責任は、他ならぬ日産自身の「自立した企業統治ができない体質」にある。

 日産は1990年代から新車が売れず、2000年には約2兆円の有利子負債を抱えた。銀行の救済融資も限界になり、欧米の複数の自動車メーカーに資本提携を持ち掛けた。唯一、救済を引き受けたのがルノーであり、6500億円を投じて最大の株主(43%)になってくれたのだ。

日本の慣行「ケイレツ」を破壊したゴーン氏

 日産に送り込まれたゴーン氏がまず取り組んだのは、部品を生産する系列企業の在り方だった。「ケイレツ」は日本の企業社会の風土を象徴する言葉である。

 ラジエーター、計器、マフラー、ランプ、シート――。部品ごとに系列企業があり、社長や役員には日産本社の幹部が天下る。営業努力をしなくても、注文は日産本社が与えてくれる。

 ゴーン氏はこの系列優先の慣行を否定し、国内外の部品メーカーと同列に置いて、価格競争をさせた。当時の幹部は「本社と系列はずっと家族のような関係だったが、ゴーン氏には一切の温情もなかった」と振り返る。日産との取引が減った分、系列企業は新しい得意先の開拓を迫られた。

 全国の販売店も同様だった。ニッサン、プリンスなど4系統あり、本社の国内営業部門が社長や役員を送り込んでいた。ゴーン氏は業績の悪い販売店の社長を次々交代させた。

日産自動車の本社=2018年11月21日、横浜市西区

再建プランを作成しながら何も実行しなかった旧経営陣

 主力の村山工場(東京)も閉鎖した。日産は村山のほかに座間、追浜、九州、栃木の4工場を持っていた。以前から旧プリンス系の村山工場が閉鎖の有力候補に上っていたが、労働組合や地元自治体・商店街、議員らが反対し、歴代社長は決断できなかった。

 1990年代から再建プランを作成しながら、何も実行しないまま倒産寸前まで行った経営陣。それが「自立した企業統治ができない体質」である。

 しかし、ゴーン氏は容赦なく実行した。外国人であるゴーン氏の強みは、日本特有の利害の絡む「しがらみ」に無縁なことだ。ゴーン氏のリストラによって1万8000人が削減され、2003年には負債を完済した。

 ゴーン氏の手法が日本社会に与えた衝撃は大きく、経営の常識をひっくり返したと言ってもいい。利権やしがらみを調整してコトを決めるような従来のやり方は、グローバル化の世界では通用しないことを教えたのだった。

「誰も不正を見抜けなかった」は本当か

 ゴーン氏の今回の逮捕容疑は、①役員報酬の過少記載、②私的目的での投資資金の使用、③私的目的での経費の支出、の3点に絞られている。

 ここでは①役員報酬の過少申告について考えてみる。

 有価証券報告書に虚偽記載が行われたのは2011年3月期から2015年3月期にかけてである。この4年間に、ゴーン氏は役員報酬として現金49億8700万円、株価連動報酬(SAR)約40億円、子会社の役員報酬など計99億9800万を得ていたが、報告書には49億8700万円のみが記載され、SARの欄はゼロと記載されていた。

 正直に書くと、高額報酬を批判されるので、半分程度に抑えたという見方がある。しかし、有価証券報告書は企業の経営実態を見るのに重要な判断材料であるから、言い訳は出来ない。

 ゴーン氏と法人である日産は金融商品取引法違反に問われ、ゴーン氏には加えて特別背任罪、業務上横領、所得税法違反などが待ち受けている。

 ゴーン氏は2000年~17年まで社長を務め、2003年~18年まで会長を務めていた。不正を行った4年間は社長・会長であり、独裁的な権限を保持していた。だから、「誰も不正を見抜けなかった」と西川広人社長は会見で弁解した。

 しかし、それは違う。社内でお金が動くには決済が必要であり、伝票は紙やデジタルの形で記録に残る。巨額のカネである。少なくとも財務担当の役員は、有価証券報告書の記載と実際の支払額の食い違いを承知していたはずだ。

ゴーン氏逮捕について記者会見する日産の西川広人社長=2018年11月19日夜、横浜市西区

気づかぬ職務怠慢か、知っていて黙認か

 ゴーン会長の下でずっと最高執行責任者(COO)を務めていた志賀俊之氏(現取締役)と西川社長が21日、東京地検に任意で事情聴取された。志賀氏はゴーン氏のリストラ策の立案や実行で評価され、側近に抜擢された人物である。

・・・ログインして読む
(残り:約787文字/本文:約2997文字)