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ゴーン逮捕「失敗したら海外から袋叩き」

大金星どころか…日本の刑事司法の後進性に世界の注目が集まる

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

東芝の粉飾決算は強制捜査しなかったのに…

 しかし、直接の逮捕容疑が、1億円以上の役員報酬を有価証券報告書に記載しなければならない開示を偽っていたという点には首をかしげたくなる。

 有価証券報告書とは、会社の財務諸表や設備、資産の内容などについて監査法人の監査を受けた後、内閣総理大臣に提出する資料。損益計算書や貸借対照表など詳細な財務諸表が記され、主には株や社債を売買する投資家が当該企業の財務内容を分析するために使われる。この財務諸表を偽って、実際よりも企業業績をよく見せる粉飾決算は後を絶たず、最近では東芝が長年にわたってパソコン部門などで粉飾していたことが明らかになっている。

 ところが東京地検特捜部は、東芝の明白な粉飾決算については強制捜査に踏み切らなかった。

拡大森本宏・東京地検特捜部長(東京地検提供)

 一方、日産のゴーン氏とグレッグ・ケリー代表取締役(当時)の2人が問われたのはそうした粉飾ではなく、役員報酬欄の虚偽記載である。

 大手監査法人幹部によると、監査法人がチェックするのは主に損益計算書、貸借対照表の財務諸表であって、役員報酬欄については会社側の申告のまま掲載されることが少なくないという。だからゴーン氏が弁護士を立てて争う姿勢を示すと、監査法人側はもめごとを嫌がってあっさり引き下がってしまうわけである。

 しかも、役員報酬の記述を決めた会社法施行規則の121条、124条を読む限り、当該事業年度に受ける見込みの報酬とあるだけで、退職後に支払われる報酬の記載の義務があるとは読み取りにくい(ただし条文とは別の記載事例とする書式には「退職慰労金」の欄がある)。非常に大ざっぱな規定のため、言い逃れをしようと思えばできそうだ。

 役員報酬も内閣府令では「会社から受け取る財産上の利益」としているだけで、たとえば会社から住宅の提供を受け、家賃を会社に負担してもらった場合、報酬に入るのかどうか、わかりにくい。この虚偽記載だけでゴーン氏のような大物経済人の逮捕にまで突き進むのは、危うさを感じてしまう。

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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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