誠実、真摯に向き合っている人じゃないとお金を集めるのは難しい
2018年12月07日
クラウドファンディングの大手の「READYFOR」(レディーフォー)は、先ごろ第三者割当増資を行い、総額5.3億円を資金調達した。新たなウィングをどこに広げていくのか、今、どのような分野に必要とされているのか、代表取締役CEOの米良はるかさん(31)に聞いた。
地下鉄大江戸線の春日駅を降り、古い住宅街を歩くと、同社の本社が入るビルがある。六本木や品川、二子玉川、恵比寿、渋谷に本社を構える成長著しいIT系新興企業とは趣が違う。
東日本大震災直後の2011年3月29日にサービスをスタートし、2014年7月、現在の形になった。社員は約70人。毎月150件から200件のプロジェクトが新たな支援を求めている。
今年3月29日現在、これまで扱ったプロジェクトの累計数は7950件で、今ではすでに累計9000件を超えているという。クレジットカード決済が8割を占める。支援総額は毎月2億円弱で、これまでの累計は56.2億円になる。
資金調達する人も、支援する人も、30代から40代が中心だ。毎月の支援者の40%はリピーターだという。男女比はほぼ変わらない。
プロジェクトへの支援総額が目標金額に達成するまではあくまでも「予約」だ。目標金額達成への道筋をサポートする、同社のオペレーションを改善したことで、最近1年間の達成率は75%になっているという。
米良さんは、「震災の直後で、人々の行動に変化があり、社会的に必要な活動をするところにお金が流れていくことが根付いたのだと思います。多様なジャンルで多くの方々が応援してくれる仕組みが定着してきています。これからも選ばれるサービスにしていくためには、より良い価値をユーザーのみなさんに提供するために投資が必要だと思っています」と話す。
拡大基調にある同社だが、申し込めばすべての案件をそのままサイトにアップしているわけではない。
同社PR室マネージャーの大久保彩乃さん(25)は、こう説明する。
「クラウドファンディングは、その人の思いに共感してお金を払っているため、誠実、真摯に向き合っている人じゃないとお金を集めるのが難しいです」
書類や電話による審査がある。例えば、イベントの場合、会場が確保されているのか、集めたお金の流れがどうなっていくのかなどによって見極められる。法務部でのチェックも経て、正式契約になる。
大久保さんは「どんな方でもどんな活動でも資金を集められる分、集めた後にしっかりとプロジェクトを遂行していただくことができるのかという実現性の部分については、かなりしっかりと審査させていただいています」という。
同社のミッションは、「資本主義でお金が流れなかった人」に、返済不要で、増やすことも求めない資金を流すことだ。プロジェクトが設定した目標金額が達成されなければ、「予約」された支援は不成立になってしまう。
手数料17%の場合は、このキュレーターがつき、レディーフォーのサイト内でのプロジェクトのページ作成や広報をより効果的にするためのアドバイスしてくれる。キュレーターが付かない手数料12%のコースを新たに設けたのは、リピーターもいるためだ。
現状ではキュレーター付きを選択するプロジェクトが多いという。キュレーターは、1案件当たり、集まった資金が適正に使われているのかもチェックするので、半年から1年のサポートになるという。成功のポイントは、事業内容に加え、文章(ページのクオリティー)、実行者の実績、どれぐらいの広報活動ができるかだという。
クラウドファンディングを事業として行う場合、達成率向上が重要になるが、キュレーターのオペレーションコストが必要で、そこを低減できるノウハウを持つかが重要になる。
米良さんは「私たちは完全成果報酬型のモデルを取っています。各案件が目標金額を達成した場合のみプロジェクトの実行者さん、そして私たちもお金が受け取れる仕組みになっているため、共に同じ目標に向かって走ることができます。また一つでも多くの案件が目標金額を達成するよう、フォロー体制を作り上げてきたことから全体の約75%のプロジェクトが達成しています」と語る。
矢野経済研究所が2017年9月に発表した2017年の市場調査による2016年度の市場規模は、新規プロジェクト支援額ベースでこうだ。
購入型クラウドファンディングの支援額は、約62億円、年間でのべ約50万人が支援したという。寄付型は約5億円だった。
2017年度の市場規模は、購入型は約80億、寄付型は約6億円をそれぞれ見込むとしている。
購入型クラウドファンディングは、資金調達の場から、テストマーケティング、PRとしての効果に加え、多くの支援を得られたことを市場性ありと判断し、金融機関が大型プロジェクトへ融資するなどといった金融機関との連携も進んでいるという。
今回、レディーフォーが資金調達した第一の理由が「ファン・リレーション・マネジメント事業」のためだという。これまで一過性で終わっていたプロジェクト側と支援する側の関係性を、長期的・継続的な支援が得られるような形にするため、サポートやツールの開発をして事業展開していくためだ。
米良さんは「継続的に活動する人は、継続的にお金が必要です。長期的に実行者と支援者がつながり続けられ、適切なタイミングでコミュニケーションをとるための仕組みを作りたいと考えています。今までもそういったチャレンジをしていた団体はあったと思いますが、賛助会員にたまにメルマガを送る程度で終わってしまうことが多かったと思います。両者のコミュニケーションの設計や体系をつくっていかないと、継続的な支援は得られないと思います。例えば、熱いコメントをオーナーがすぐ送るとか、支援者がミーティングに参加できるとか、継続的に支援者がプロジェクトに関わっていると感じられるようなプラットフォームを考えていきたいです」と話す。
そしてもう一つが、「ローカールパートナーシッププログラム」の強化だという。現状では、同社の利用者は、都市部のボリュームが大きく、もっと地方に広げていきたいからだ。
米良さんはこう言う。
「地方だと、クラウドファンディングという言葉は聞いたことがあるけど、そのプラットフォームを使うまでのハードルが高いと感じています。そのため、これまでも地方銀行や信用金庫、地方新聞社とパートナーシップの提携をしてきました。地域に密着した人たちと一緒になって浸透させていくことによって、どうしたらいいのか分からない人たちにも身近な手段になっていくと思います」
資金調達する機関として、地銀や信金と競合はしないと考えている。すでに全国約70の銀行・信用金庫と連携している。
「融資としては難しい案件でも、クラウドファンディングを通じて返済しなくてもいいお金の流れができます。クラウドファンディングを通じて、テストマーケティングのようなこともできます。その結果を見てから、地銀や信金が事業化への融資をしてもいいのではないでしょうか」
「私の病気は治療薬があったため、その点に関しては本当に幸運だったと思います」と米良さんは振り返る。「自分が入院していた時に、無菌室のプロジェクトが始まったこともあり、すごく感情移入しました」とも言う。
無菌室のプロジェクトとは、この時期、国立成育医療研究センターが同社のクラウドファンディングを利用して、小児がん患者が必要な無菌室の追加整備費を調達したプロジェクト(詳細はこちら)のことだ。
購入型ではなく、寄付型のクラウドファンディングだ。国立病院も、独立研究開発法人となり、かつてのような国に頼っているだけでは、患者が必要な療養環境が届かない時代に入っていることを示す一例だ。
また、製薬会社の創薬の研究は、対象患者数が多い疾患がどうしても優先されがちだ。抗がん剤も同じで、希少性のある病気の研究は、研究費の確保に窮している場合が多い。
同社として、今後、コラボレーションしていきたい分野の一つが、「公的資金が減らされている分野」だという。
「日本では、補助金、助成金はどんどん減ってきています。ただそのことを嘆いても事態は変わりません」
同社は現在、全国約100大学と話をしているという。すでに包括契約をする大学も出てきている。
「私の場合、5年生存率が90%の抗がん剤ができたが、10年前は25%でした。新しい薬ができたことで飛躍的に生存率が向上しました。新薬をつくるにも、マーケットがないと多額の投資はされません。研究費も結果が見えないと出されない時代になってきました」
「長期、未知のものにはお金が流れないと、イノベーションは生まれません。私たちが、補完的に新しいお金を流すことによって、イノベーションを起こす力になりたいと思います」
一方、クラウドファンディングという新たな資金調達手法で支援を得た側にも、課題がある。
国立成育医療研究センターは2016年9月、「小児がんと戦う、みんなの願い。不足する無菌室をつくろう!」と題し、3116万2000円を集めた。目標は1500万円で、2日と6時間で達成した後も続々と支援の輪が広がった。1861人が支援に参加。今年9月下旬に、新しい無菌室2部屋が完成した。
また、別のクラウドファンディングのプラットフォームを利用し、ドクターカー購入のための資金1500万円を目標に支援を求め、結果的に1741万円が集まったという。
同センターとして、クラウドファンディングを利用するのは今回が初めてだった。早期に目標金額が達成できた理由の一つに、インターネットでの報道を挙げる。入院中の子どもが取材に応じ、報道によって、これまで小児がんなどを経験したことがある子を持つ親や祖父母が気付くきっかけとなった。
同センター総務部の佐藤徹さんは「報道にたよらないと成功しなかった」と振り返る。
ただ、二つのチャレンジを通じて資金調達したことで、新たな課題も見えてきたという。
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