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デジタル税はなぜ登場したのか

岡直樹 東京財団政策研究所 税・社会保障調査会

税のポリシーメーカーたちは何をしてきたか

 OECD租税委員会は、「各国がリーマンショック後に財政状況を悪化させ、より多くの国民負担を求めている中で、グローバル企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を軽減している問題への対応」を旗印に、BEPS(「税源浸食」・「利益移転」)プロジェクトを2012年に立ち上げた。その「行動1」として掲げられたのが「デジタルエコノミーの発展への対応」だ。

 しかし、OECDが2015年に取りまとめた最終報告書では、「電子経済の発展に伴いBEPSの問題が助長される一方、特有の問題は存在せず、他の行動における勧告で対応可能」と結論し、具体的なルールの勧告には踏み込めなかった。

 ハモンド蔵相は、英国内の売り上げあるいはユーザーの存在で莫大な利益を上げているグローバル企業に対して適切に税負担を求めることができない場合、税制の安定や公平性、あるいは競争条件の公平(レベルプレイングフィールド)が損なわれることへの危機感を露わにした。英国のデジタル税はいわば現状への異議申し立てだ。内容も考え抜かれたものであり、権威ある税専門誌でも「英国はデジタル課税一番槍に名乗りを上げた」と紹介されている。(Tax Notes International 18年11月19日号)

デジタル税の中身

 英国デジタル税の納税義務者は国内・国外のプラットフォーマー(ソーシャルメディア、サーチエンジン、マーケットプレイスの提供)だ。そして、「英国ユーザー」が“クリック”した場合や利用契約している場合、そのデジタル役務は英国で提供されたものとして、関連するプラットフォーマーの収入(経費控除前のグロス)に2%の税率で課税される。

 英国ユーザーとは原則として通常英国に居住する者を指すが、適当と認められる場合には利用したデバイスのIPアドレスで判断する。納税義務が生じるのは全世界のプラットフォーム事業からの売り上げが5億ポンド(733億円)超の企業だ。利益率の低い法人への軽減措置(セーフハーバー)もある。

 デジタル税の提案は英国が初めてではない。EUは2018年3月に3%のデジタル税を提案し、年内の合意を目指して蔵相理事会で議論中だ(次のヤマ場は12月4日の蔵相理事会)。報道では、特にフランス、そして議長国オーストリアなどが熱心とされる。EU加盟国であるスペインも独自に3%のデジタル税を導入する構えだ。

 各国がデジタル税に目をつけるのは、売上税(間接税)なので、租税条約のルール「支店などがないと課税できない」に縛られないし、独立企業間価格による所得計算のハードルもない簡素な仕組みなので、実効性(歳入確保)を期待できるからだ。しかし、 ・・・ログインして読む
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筆者

岡直樹

岡直樹(おか・なおき) 東京財団政策研究所 税・社会保障調査会

税理士。元国税庁国際課税分析官、東京局主任国税訟務官(国際)、税務大学校教授。財務省主税局、OECD租税委員会事務局、東京国税局、大阪国税局で勤務。執筆論考として、「日本の所得税負担の実態―高額所得者を中心に」(財務総合政策研究所ファイナンシャルレビュー118号)、「移転価格税制に関する考察」(税大論叢59号。第18回租税資料館賞受賞)ほか。