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奨学金の延滞を防ぐ仕組みをどうつくるか

日本学生支援機構、奨学生、大学など関係者それぞれの取り組みが必要だ

平田英明 法政大学経営学部教授

高水準の奨学金返済延滞率

 返済の約束が果たされないかもしれないという不確実性の指標とも言える機構の奨学金事業の返済延滞率は、過去10年以上低下傾向にあるものの、2018年3月末時点で3.4%(3カ月以上延滞率)である。単純に比較はできないが、同時期の住宅ローンの延滞率(住宅金融支援機構の買取債権の3カ月以上延滞率)の0.43%に比べて高水準となっている。

 借入額自体は住宅ローンの方が大きいにもかかわらず、どうしてこのような差が生じるのだろうか。鍵を握ると考えられるのが返済のスキームだ(図表1)。機構の場合、対象となる学生本人(奨学生と呼ばれる)が在学期間中に借入をして、卒業後つまり借入期間終了後に返還を開始する。一方、住宅ローンの場合、返済は借入直後に開始する。

図表1 返済(返還)のキャッシュフロー例(上:機構の奨学金、下:住宅ローン)

拡大(注)機構奨学金は元金均等返還方式(機構奨学金の返還期間は最大20年)。住宅ローンは元利均等返済、元金均等返済の2方式があるが、ここでは後者を仮定(住宅ローン返済期間は債務者毎に区々)。(出所)日本学生支援機構

奨学金事業はリスキーなビジネス

 この仕組みを踏まえて、住宅ローンと比較した機構の奨学金貸与の特徴を整理しよう。借入サイド(奨学生)の視点に立つと、第一に、返済がすぐに開始しないため、返済の実感なく毎年借入を積み上げていくことになる。第二に、借入時点の年齢がかなり若く、金銭感覚が未熟である。第三に、借入年齢が住宅ローン借入時を大きく下回り、稼得能力を所与とした借入判断ができない。

 貸出サイド(機構)からすると、第一に、住宅ローンに比べると、貸出当初から4年以上もの猶予を設定するだけでなく、金利水準は通常の借入よりも相当低い(2018年11月時点で0.33%)破格の条件を提示している。第二に、債務者は未成年の大学生となることから、連帯保証人または機関保証を設定せざるをえない(担保はなし)。第三に、奨学生の将来賃金や将来の回収について見通すのが難しい。

 このように、機構の奨学金事業は実はリスキーなビジネスである。更に付け加えると、機構の奨学金の申請却下率は1%程度と非常に低いこともリスキーさに拍車を掛ける。したがって、延滞率がある程度高くなることは致し方ないとも言えるだろう。

 すなわち機構は、民間の金融機関ではなかなか取れないリスクを、実質的な政府系金融機関として取っている。だからこそ、きちんと資金を回収していかないと、仕組みを長期的に維持できない。返済が困難化した時の機構の対応が非難されることが多い。だが、返済をしてもらえない以上は、きちんと取り立てをするのが基本であるし、そのことを奨学生もその連帯保証人も理解しておく必要がある。逆に、それをしないことは、未来の奨学生の機会を奪うことになりかねない。

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筆者

平田英明

平田英明(ひらた・ひであき) 法政大学経営学部教授

1974年東京都生まれ。96年慶応義塾大学経済学部卒業、同年日本銀行入行。調査統計局、金融市場局でエコノミストとして勤務。2005年法政大学経営学部専任講師、12年から現職。IMF(国際通貨基金)コンサルタント、日本経済研究センター研究員、ハーバード大学客員研究員などを務める。経済学博士(米ブランダイス大学大学院)。専門分野は国際マクロ経済、金融。近著は”Differentiated Use of Small Business Credit Scoring by Relationship Lenders and Transactional Lenders.” Journal of Banking and Finance、”Accounting for the economic relationship between Japan and the Asian Tigers.” Journal of the Japanese and International Economies、”Tax reform in Japan: Is it welfare-enhancing?” Japan and the World Economy、”Global House Price Fluctuations: Synchronization and Determinants.” NBER International Seminar on Macroeconomics 2012など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです