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スマホを狙う究極のスパイウェア

サウジアラビア人記者殺害事件で暗躍?

小林啓倫 経営コンサルタント

 ジョージ・オーウェルの名作『一九八四年』。同作品の中で、治安維持組織である<思考警察>は、「テレスクリーン」と呼ばれる装置を使って市民の監視を行っていた。テレスクリーンは音声と映像の受信と発信を同時に行い、市民の行動をすべて補足できるという設定だ。残念ながらテレスクリーンがどのように開発されたのか、『一九八四年』の中では解説されていない。しかし現実世界での「テレスクリーン」は、どうやら一般企業が開発することになりそうだ。

サウジアラビア人記者殺害事件で暗躍か

拡大2016年1月、サウジアラビアの首都リヤドで朝日新聞記者のインタビューに応じたジャマル・カショギ氏

 2018年10月上旬、サウジアラビア人のジャマル・カショギ記者が失踪し、その後サウジアラビア政府によって殺害されていたことが明るみに出た事件。捜査によりさまざまな事実がわかってきたが、カショギ記者の動向をひそかに探るために、サウジアラビア政府がイスラエル製のスパイウェアを使ったのではないかという疑惑が浮上している。

 スパイウェアとは、コンピューターウイルスのようなソフトウェアだ。さまざまな機器に侵入し、ユーザーが気づかないうちに情報を抜き取ったり、機器を誤作動させたりする。特にスパイウェアの場合、「スパイ」という名前が付けられていることからもわかるように、特定の人物や企業、団体をターゲットとして彼らの情報を集めたり、何らかの損害を与えたりすることを目的として使われる。

 スパイウェアはハッカーのような個人がつくることもあるが、誰かを監視するという性質上、政府が開発を主導するケースもある。たとえば2010年に発見され、「スタクスネット」と名付けられたソフトウェアは、USBメモリーを経由してイランの原子力施設に感染し、そこに設置されていた多数の遠心分離機を攻撃して使用不能に追い込んだとされている。CIAの元職員で、米国のさまざまな機密情報を暴露して話題になったエドワード・スノーデンは、このスタクスネットが米国とイスラエルの諜報機関によって開発されたと述べている。

 そして今回疑惑が持ち上がったのが、イスラエルの企業NSOグループが開発した「ペガサス」というスパイウェアだ。サウジアラビアがイスラエルのソフトを?と驚くかもしれない。確かに両国は中東戦争など戦火を交えた仲だが、最近はイランの台頭により、急速に関係を深めようとしている。敵の敵は味方、というわけだ。

 裏側でどのような取引があったのかはわからないが、とにかくサウジアラビア政府はペガサスを手に入れ、カショギ記者の周辺で彼に関する情報収集を行っていたようである。

 ペガサスとはどのようなスパイウェアなのだろうか。簡単に言うと、これは主にスマートフォンを標的としたスパイウェアで、感染した端末に保存されているデータを盗み出したり、カメラやマイクを遠隔操作して盗撮・盗聴を行ったりすることができる。しかも簡単に感染させることができ、さらには検知が非常に難しいという、背筋が寒くなるようなソフトウェアだ。セキュリティ会社のカスペルスキーは、ペガサスを「究極のスパイウェア」と評し、「要するに、Pegasusは標的となった人の生活をあらゆる側面から覗き見できる」と解説している

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筆者

小林啓倫

小林啓倫(こばやし・あきひと) 経営コンサルタント

1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『今こそ読みたいマクルーハン』(マイナビ出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(トーマス・H・ダベンポート著、日経BP)など多数。また国内外にて、最先端技術の動向およびビジネス活用に関するセミナーを手がけている。

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